アジア選手権大会の団体戦、ダブルス種目は中国を倒して優勝できるか、シングルスはどこまで勝ち上がれるかが注目ポイントでした。また、パリオリンピック選考レースで2位、3位争いをしている平野美宇選手と伊藤美誠選手のシングルスの結果も注目されました。
総じて、中国の強さを実感させられる大会になりました。団体戦、シングルス、混合ダブルスの全てで中国に負けてしまいました。特に孫穎莎選手の強さは異次元でした。
*アイキャッチ画像はテレビ東京特設ページからの引用です。
大会の仕様
- 2年に1度、奇数年に開催されるアジア地区の大会。
- 種目はシングルスのみによる男女団体戦、男女シングルス、男女ダブルス、混合ダブルス。
- 団体戦は本戦から6ヶ国+予選リーグを勝ち上がった2ヶ国の計8ヶ国によるトーナメント戦。
- シングルスはRound 128から、ダブルス、混合ダブルスはRound 64または32からと試合数が多い。
- 全種目全試合5ゲームマッチ。
シングルスはパリオリンピック選考ポイント付与対象です。世界選手権(世界卓球)に次ぐ高い配点になっています。
また、打倒中国ポイントの対象である孫穎莎選手、陳夢選手、陳幸同選手がシングルスにエントリーしており、特にパリオリンピック選考レースの2位争いをしている平野美宇選手と伊藤美誠選手にとっては、少しでも多くのポイントを稼ぎたい大会です。
大会情報
- 期間:9月3日から10日
- 場所:韓国の平昌(日本との時差なし)
- 出場種目:シングルス、混合ダブルス、団体
- 参照:ITTF/ATTUの公式ホームページ、日本卓球協会のホームページ
中国は前回大会に出場せず、日本女子は団体で優勝、早田ひな選手はシングルスと混合ダブルスで優勝と3冠を達成しましたが、今大会はフルメンバーで参戦しました。ITTFの扱いは「大陸大会」でシングルスで優勝しても500ポイントしか付与されませんが、出場メンバー的には世界選手権(優勝すると2000ポイント)と大差ありません。
選手選考基準
団体戦とシングルスに出場する選手の選考には、パリオリンピック選考ポイントが使われました。ダブルス種目の選考は日本卓球協会によって行われました。
また今大会は、2024世界卓球選手権釜山大会(団体戦)アジア大陸予選会、2024年パリオリンピック男子団体、女子団体、混合ダブルスのアジア大陸予選会を兼ねることから、非常に重要な大会に位置づけられています。それは派遣者名簿(日本卓球協会のホームページから引用)を見ても分かります。
ネット中継
- ATTUのYouTubeチャンネルがT1からT4をリアルタイム配信しました。が、T1の試合でTV中継されるものは全世界でネット配信されないという、WTTの運営ではありえないものでした。さらに5日のT1の試合はTV中継されないものまでネット配信されないという極めて残念な対応でした。このATTUの対応に、ネット民から不満が噴出しました。
- T1の試合でネット配信されないものは、基本、中国のTV中継を配信しているサイトをVPNを使って無理やり視聴するしかありませんでした。
- 予想に反し、テレビ東京卓球チャンネルでの配信はありませんでした。T1だけでも中継してくれていたら、と思った人は多かったことでしょう。
この記事内で「この試合は中継されず、アーカイブ動画も残っていません。」とあるのは、T1の試合でネット配信されなかったものか、T5からT9の試合で配信対象外だったものです。
なお後日、大会を協賛したBUTTERFLYのYouTubeチャンネルにアーカイブがアップされ始めましたので、適宜リンクを追記しています。
出国前会見
8月31日に成田空港で行われた出国前会見です。「シングルスでは中国人選手を2回倒すのが目標」
同じ会見のTBSスポーツ版。
上記会見を元にした記事。
次は日本卓球協会のXによるメッセージ。(ほとんどの選手は前日にNTCで撮影済みでしたが、早田ひな選手はTリーグに出場したので成田空港で撮影されました。)
🏓ITTF-アジア卓球選手権大会 🇰🇷
🗓9/3〜10
🔗https://t.co/Ieu6XD7SN3🔷団体・シングルス・混合ダブルス出場
🇯🇵#早田ひな
「自分の成長が感じられる大会になればいいなと。目標は、すべての種目で金メダル。」#アジア選手権#平昌 #ピョンチャン#VICTAS #MIZUNO#ANA #全農 #スターツ #日清紡 pic.twitter.com/seIHOrPIt9— 日本卓球協会 (@jtta_official) August 31, 2023
今大会の見どころ
団体戦:ベスト4(銅メダル)
2021年の前回大会で優勝した日本は第1シードでしたが、不参加だった中国が予選リーグからのスタートで、ドローにより準決勝で中国と当たってしまいました。このシード・ドロー方法については当然のことながら批判が多かったです。
インドチームには快勝したものの、中国チームには歯が立たずに完敗しベスト4(銅メダル)でした。中国チームは予選リーグから試合をこなしていたこともあってか、仕上りがすこぶる良かったです。
メダル授与セレモニーの様子。
引用:石田コーチのインスタ
準々決勝
インドチームとの対戦でした。日本は伊藤美誠選手、早田ひな選手、平野美宇選手が出場しました。
試合結果を伝える記事。
第1試合
A・ムカルジー選手と伊藤美誠選手の対戦でした。A・ムカルジー選手はバック面にアンチトップスピンラバーを貼っている珍しい戦型です。
苦戦しましたが、ストレートで勝つことができました。とても楽しそうにプレーしているのが印象的でした。
フル動画。
第2試合
マニカ・バトラー選手と早田ひな選手の対戦でした。アジアカップ2022の3位決定戦以来の対戦です。バトラー選手は裏面に粒高ラバーを使う異質型で、ラケットを反転させる「業師」と呼ばれています。
しっかり勝利することでエース起用に応えました。
- 第1ゲーム、接戦で7-7まで競りますが、そこから得意のサーブ3球目をフォアハンドドライブで強打する攻撃が決まり9-7とします。早田選手が吠えます。最後レシーブ2本をチキータでエースして11-7でこのゲームを取ります。早田選手の仕上がりは良さそうです。
- 第2ゲーム、早田選手にミスが増え、レシーブが甘くなったところを強打されて2-7と大量リードされる苦しい展開になります。そこからプレーの精度を上げて9-9で追い付きます。頭を使ったプレーをしていることが素人目にも分かります。最後レシーブ2本を攻めたツッツキからの展開でものにし、11-9でこのゲームも取ります。早田選手、ゲーム運びが巧いです。
- 第3ゲーム、接戦で点差が開かない展開になり、8-8まで競りますが、勝負どころで失点が響いて9-11でこのゲームを落としてしまいます。
- 第4ゲーム、らしくないミスが続いて0-3とイヤな立ち上がりになりますが、そこから流れをつかんで驚異の11連続得点で11-3で勝ち切り、日印エース対決に勝利しました。
インドチームで突出した実力者であるバトラー選手に勝利し、チームに貢献できて良かったです。またシングルスで順当ならR16でバトラー選手と対戦することになりますが、その前に戦って何が効いて何が効かないかを確認できたことの意味は大きいです。
フル動画。
第3試合
S・ムカルジー選手と平野美宇選手の対戦でした。A・ムカルジー選手の姉で、バック面が異質ラバーです。
第1ゲームはミスが多く落としてしまいますが、第2ゲーム以降は曲球にしっかり対応して勝利することができました。
フル動画。
準決勝
中国チームとの対戦でした。日本は早田ひな選手、平野美宇選手、伊藤美誠選手が出場しました。
この試合は公式にはネット中継されず、SNSで知った中国のTV放送の再配信で観戦しました。
試合結果を伝える記事。
第1試合
孫穎莎選手と早田ひな選手の対戦でした。WTTスターコンテンダーリュブリャナ2023の準々決勝以来の対戦になりました。今年は良く当たります。
早田選手の仕上がりは申し分ないのに、孫穎莎選手が強すぎました。試合後半は接戦になりましたが1ゲームも取らせてもらえませんでした。
この試合は中継されず、アーカイブ動画も残っていません。
試合結果を伝える記事。
第2試合
陳夢選手と平野美宇選手の対戦でした。
第1ゲームを取ったものの、第2ゲーム以降は陳夢選手の強さが目立つプレーが多く、実力差を感じる結果になりました。
この試合は中継されず、アーカイブ動画も残っていません。
試合結果を伝える記事。
第3試合
陳幸同選手と伊藤美誠選手の対戦でした。
ミスが多く仕上がっていない伊藤選手に対し、陳幸同選手は伊藤美誠対策が完璧で、試合をさせてもらえませんでした。
この試合は中継されず、アーカイブ動画も残っていません。
試合結果を伝える記事。
シングルス:ベスト8
早田ひな選手はR64からの登場で、R16でマニカ・バトラー選手と、準々決勝で孫穎莎選手と当たるドローでした。
次はR32以降の早田選手の山を切り出したものです。
R64での激闘を乗り越えて準々決勝まで進みますが、またしても孫穎莎選手に負けてしまいベスト8でした。孫穎莎選手の強さは異次元でした。
Round 64(2回戦)
韓国の李恩慧(イ・ウンヘ)選手との対戦でした。初対戦です。
李恩慧選手がとんでもなく強くて苦しみましたが、勝てて良かったです。
- 第1ゲーム、強気で攻めてくる李恩慧選手に押されて3-7と大量リードされます。そこから追い上げて10-9と先にゲームポイントを握ったものの、決めに行ったロングサーブを強打されてデュースに持ち込まれます。そこから互いに決め手を欠く展開が続きますが、17-19で落としてしまいます。李恩慧選手強いです。R64で当たるような選手ではないです。
- 第2ゲーム、レシーブが甘くなる、サービスをミスするなど流れをつかめないまま1-5と大量リードを許す苦しい展開になります。そこからレシーブをバックハンドに変えて追い上げて9-9とします。李恩慧選手のローグサーブがオーバーして10-9、最後チキータレシーブを決めて11-9でこのゲームをなんとか取ります。このゲームを落としていたら、今日は勝てなかったと思いました。
- 第3ゲーム、接戦で6-6まで競りますが、そこから流れをつかんで10-6とゲームポイントを握ります。そこからラリーを2本落としますが、最後は技ありのサーブで11-8でこのゲームも取ります。このゲーム、ショートサーブは徹底してバックハンドで攻めたのが奏功した印象です。
- 第4ゲーム、サーブ権を持った時の失点が減り、ラリー戦の勝率も上がって点差が開かない展開が続きます。7-7からのレシーブ2本を攻めて9-7、最後サーブ2本は狙い通りの展開で11-7で勝ち切り、苦しかった試合をものにしました。
この勝利は、スターシニー選手にシンガポールスマッシュ2023のR32で負けてしまった時の反省が活かされた結果だと思っています。
フル動画。
Round 32(3回戦)
カザフスタンのAKASHEVA選手との対戦でした。初対戦です。
問題なく勝てました。
フル動画。
Round 16(4回戦)
タイのJ・サウェッタブート選手との対戦でした。初対戦です。
第1ゲームは接戦でデュースの末取りましたが、第2ゲーム以降はしっかり修正できました。
フル動画。
準々決勝
孫穎莎選手との対戦でした。団体戦の準決勝でも対戦しています。
第1、第2ゲームは圧倒され、第3ゲームは何とか取り返したものの、孫穎莎選手の強さが際立つ試合になりました。早田選手、国内選考会なら優勝できるパフォーマンスだったと思うのですが、孫穎莎選手の強さは異次元でした。
この試合は中継されず、アーカイブ動画も残っていません。
試合結果を伝える記事。
インタビュー記事。「収穫はあった。さらに精度を上げていく。」
混合ダブルス:ベスト8
今大会は世界最強ペアである王楚欽/孫穎莎ペアがエントリーしておらず、はりひなペアは第1シードでした。準々決勝で林高遠/王芸迪ペアと、順当なら準決勝で張禹珍/田志希ペアと当たるドローでした。
ところが張本智和選手が右手に問題を抱えていて、万全な状態ではない中での戦いになり、準々決勝で林高遠/王芸迪ペアに負けてしまいました。
Round 32(2回戦)
DESAI/AKULAのインドペアとの対戦でした。
この試合は中継されず、アーカイブ動画も残っていません。
試合結果を伝える記事。
Round 16(3回戦)
MANLAIJARGAL/BATMUNKHのモンゴルペアとの対戦でした。
危なげない試合運びで快勝でした。
フル動画。
準々決勝
林高遠/王芸迪の中国ペアとの対戦でした。今大会の第一関門です。
接戦になりましたが勝負どころでの失点が多く、らしくない負け方をしてしまいました。それでも、張本選手が万全な状態でない中、良く頑張ったと思います。
フル動画。
試合結果を伝える記事。
試合後のインタビューに触れた記事。おすすめ。
まとめ
- 団体戦は準決勝で中国と当たってしまい、完敗でベスト4(銅メダル)でした。中国は優勝しました。
- シングルスはR64で敗退してもおかしくない試合をものにし、準決勝まで進みましたが、孫穎莎選手に異次元の強さを見せられる結果になりました。結果ベスト8、WRポイントを90、選考ポイントを40獲得しました。
- はりひなペアの混合ダブルスは準々決勝で林高遠/王芸迪の中国ペアに敗れてベスト8でした。張本智和選手が右親指を負傷していたので、この結果は気にしなくていいです。張本智和選手には治療に専念して、次の目標としている試合に間に合わせて欲しいです。
団体戦とシングルスの2試合で孫穎莎に実力差を見せつけられたのは、収穫もあったとは言え、厳しいですね。
パリオリンピック選考レース
今大会は選考ポイント付与対象かつその配分が世界卓球に次いで高かったため、シングルスに出場して好成績を残せるかが、2位以下の選手には重要でした。次はシングルスに出場した5名の結果と付与された選考ポイント一覧です。
次はアジア選手権大会終了時点の、選考ポイント合計上位8名です。平野美宇選手と伊藤美誠選手の差が20ポイント縮まりました。
選考ポイントが付与される残りの大会を考慮すると、早田ひな選手の1位通過は(ケガさえしなければ)確実です。2位、3位争いは平野美宇選手と伊藤美誠選手が有利ですが、木原美悠選手はまだ3位を狙えるはずです。