制度

【2023年版】卓球の国際大会 WTTシリーズとは何か

ITTF(国際卓球連盟)主催の多くの国際大会は、2021年からWTTシリーズに置き換えられました。コロナ禍だけではない、様々な理由によりWTTは計画通りに十分な数の大会を開催できておらず、また実際の運営内容が不透明で、出場選手の顔ぶれを見て疑問に思うことが少なくありません。

でも決められたルール・制度の範囲内でより多くの国際大会に出場して実力を発揮し、WRポイントを稼いで世界ランクを上げるしかありません。それもほぼ1年中休むことなくです。WTTシリーズに変わっても、それは同じです。

*アイキャッチ画像はWTT公式サイトからの引用です。

2022年から変更されています

WTTシリーズは2023年になっていくつか変更されています。2022年版については「【2022年版】卓球の国際大会 WTTシリーズとは何か」をご覧ください。

2022年からの変更点

WTTグランドスマッシュ

  • 混合ダブルスのペア数が16から24に増えました。
  • シングルスのメインドローのシード数が8から16に倍増しました。
  • 準々決勝も7ゲームマッチになりました。

WTTコンテンダー、WTTスターコンテンダー

  • 混合ダブルスに予選が追加されました。
  • シングルスの準決勝が5ゲームマッチに変更されました。決勝のみが7ゲームマッチです。(この変更はとても残念です。)
  • 2022年までは、前6週以内にグランドスマッシュかチャンピオンズに出場していない場合、WR順で選ばれていました。(ホスト国の裁量は及びませんでした。)ところが2023年からは、エントリー締切後にホスト国が誰を選ぶかの裁量権を持ちます。もしもホスト国が決めなかった場合は、WR20位から1位方向へ逆順に選ばれます。

WTTファイナルズ

  • WTTカップファイナルズがWTTファイナルズに名称変更されました。

WTTフィーダーシリーズ

  • 2022年までシグルスはすべて7ゲームマッチでしたが、これがすべて5ゲームマッチに変更されました。

シリーズ共通

  • フロアマットが黒色の場合、黒色のシャツは禁止です。日本人女子選手が着る黒ユニはカッコ良かったのに、着る機会が減るのは残念です。

ITTFシリーズからWTTシリーズへ

ITTFは2019年5月にWTT(World Table Tennis)構想を発表しました。それまでよりも卓球の商業的側面を強化することを狙ったものです。WTTはITTFの下部組織なのですが、運営的には並列(同水準)に見えます。

そして2021年から、それまでITTFが主催していた国際大会の多くがWTTが主催するWTTシリーズに置き換えられました。

WTTシリーズの概要

が、コロナ禍の影響があったとは言え、2022年になっても開催数が十分ではなく、また出場に関して制約が多く、特にWRが11位から20位の選手はこれら大会に出場してランキングを上げるのが難しい状況です。

2022年1月から、WTTシリーズの下位のシニア向け大会としてWTTフィーダーシリーズが追加されました。WR30位以内の選手は出場できません。開催数はコンテンダーより多いですが、優勝時のWRポイントはわずか150です。(出場可能選手のWRを考慮すると妥当な設定ですが、WRは失効していないもののうちポイントが高いもの8大会分しか積算されないため、フィーダーシリーズに出まくればいいというものでもありません。)

なお、世界卓球選手権大会はITTFの、アジア競技大会はATTUの主催です。

WTTシリーズの詳細

WTTグランドスマッシュ

  • オリンピック、世界卓球選手権大会(個人戦)と同列のWTTシリーズ最上位大会です。
  • 年間最大4大会開催可能ですが、大会運営に億円単位の費用がかかるため、開催できる国・協会が限られるようです。
  • 本戦10日、予選2~3日のゆったりした日程。
  • シングルス、ダブルス、混合ダブルスの3種目を実施。
  • シングルスの本戦は64名、うち8名は予選64名を通過した選手。
  • ダブルス24ペア、混合ダブルス24ペア(共に予選なし)。
  • シングルスは本戦、予選合わせて各協会から6名までしか出場できません。また世界ランク上位者から優先出場となっています。
  • 世界ランク20位以内の選手参加規制はありません。
  • ワイルドカード枠4名、WTT推薦枠2名。
  • 出場資格を持つ選手が病気や怪我以外の理由で辞退した場合、ペナルティの対象となります。
  • シングルスのシード数は16。(2022年までは8。)
  • シングルスの準々決勝、準決勝、決勝のみ7ゲームマッチ、他はすべて5ゲームマッチ。(2023年からシングルスの準々決勝が7ゲームマッチに変更。)
  • 優勝選手には2,000ポイントが付与されます。WTTチャンピオンが1,000ポイント、WTTスターコンテンダーが600ポイントですからダントツの高さです。

早田ひな選手が出場したグランドスマッシュ大会です。

WTTファイナルズ

2022年まではWTTカップファイナルズという名称でした。

  • シニア向けWTTシリーズの上から2番目の大会です。
  • 男女それぞれ年間最大1大会のみ開催可能です。
  • 本戦5日、予選はありません。
  • シングルスとダブルスを実施。出場人数は16名の完全招待制。(世界ランク上位者のみが招待される特別な大会。)
  • 各協会からの出場人数に上限なし。
  • ワイルドカード枠、WTT推薦枠なし。
  • シングルスのシード数は4。
  • 招待された選手が病気や怪我以外の理由で辞退した場合、ペナルティの対象となります。
  • 準決勝、決勝のみ7ゲームマッチ、他は5ゲームマッチ。
  • 試合はテーブル1台のみで進行されます。
  • 優勝選手には1,500ポイントが付与されます。

完全招待制で世界のトップ選手だけが出場できる、強い選手ばかりだけど16名しかいないのにWRポイントが高い、TOPランカーを優遇しているという印象です。

早田ひな選手が出場した(カップ)ファイナルズ大会です。(2022年10月に開催されたカップファイナルズは、ケガのため欠場しました。)

WTTチャンピオンズ

  • シニア向けWTTシリーズの上から3番目の大会です。
  • 男女それぞれ年間最大4大会開催可能です。
  • 本戦6日、予選はありません。
  • シングルスのみ実施。出場人数は30名+ワイルドカード1名+WTT推薦1名の合計32名。
  • 各協会から4名までしか出場できません。
  • 世界ランクによる出場制限はありません。
  • ワイルドカード枠1名、WTT推薦枠1名。
  • シングルスのシード数は8。
  • 出場資格を持つ選手が病気や怪我以外の理由で辞退した場合、ペナルティの対象となります。
  • 準決勝、決勝のみ7ゲームマッチ、他は5ゲームマッチ。
  • 試合はテーブル1台のみで進行されます。
  • 優勝選手には1,000ポイントが付与されます。

早田ひな選手が出場したチャンピオンズ大会です。(2022年10月に開催されたWTTチャンピオンズマカオは、ケガのため欠場しました。)

WTTスターコンテンダー

  • シニア向けWTTシリーズの下から2番目の大会です。
  • 年間最大6大会開催可能です。
  • 本戦5日、予選2~3日の日程で選手によっては1日に4試合に出場します。
  • シングルス、ダブルス、混合ダブルスの3種目を実施。
  • シングルスの本戦は48名、うち8名は予選を通過した選手。
  • 予選人数は32、48、64名から開催国が選択します。
  • ダブルス、混合ダブルス本戦16ペア、うち4ペアは予選を通過したペア。
  • シングルスは各協会から6名までしか出場できません。(世界ランク20位以内の選手を除きます。)また世界ランク21位以降の上位者から優先出場となっています。
  • 世界ランク20位以内の選手は、全体で6名しか出場できません。ホスト国はその6名を選ぶ裁量権を持ちます。
  • ワイルドカード枠4名、WTT推薦枠2名は上記制限の対象外。
  • シングルスのシード数は16。
  • 前6週以内にグランドスマッシュまたはチャンピオンズに出場した選手は優先度が下がります。
  • シングルスの決勝のみ7ゲームマッチ、他はすべて5ゲームマッチ。(2023年からシングルスの準決勝を5ゲームマッチに変更。)
  • 優勝選手には600ポイントが付与されます。

ところが実際に出場している選手の顔ぶれを見ると、2022年まではこのルールが厳密に運用されていないことにびっくりします。

早田ひな選手が出場したスターコンテンダー大会です。

WTTコンテンダー

  • シニア向けWTTシリーズの最下位大会です。(WTTフィーダーシリーズはWTTシリーズではありません。)
  • 年間最大14大会開催可能です。
  • 本戦4日、予選2~3日の日程で選手によっては1日に4試合に出場します。
  • シングルス、ダブルス、混合ダブルスの3種目を実施。
  • シングルスの本戦は32名、うち8名は予選を通過した選手。
  • 予選人数は48、64、96名から開催国が選択します。
  • ダブルス、混合ダブルス本戦16ペア、うち4ペアは予選を通過したペア。
  • シングルスは各協会から4名までしか出場できません。(世界ランク20位以内の選手を除きます。)また世界ランク21位以降の上位者から優先出場となっています。
  • 世界ランク20位以内の選手は、全体で3名しか出場できません。ホスト国はその3名を選ぶ裁量権を持ちます。
  • ワイルドカード枠3名、WTT推薦枠1名は上記制限の対象外。
  • シングルスのシード数は8。
  • 前6週以内にグランドスマッシュまたはチャンピオンズに出場した選手は優先度が下がります。
  • シングルスの決勝のみ7ゲームマッチ、他はすべて5ゲームマッチ。(2023年からシングルスの準決勝を5ゲームマッチに変更。)
  • 優勝選手には400ポイントが付与されます。

ところが実際に出場している選手の顔ぶれを見ると、2022年まではこのルールが厳密に運用されていないことにびっくりします。

早田ひな選手が出場したコンテンダー大会です。

WRポイント

WTTシリーズを含む国際大会で付与されるWRポイント一覧です。

付与されるWRポイント一覧

 出典:ITTF TABLE TENNIS WORLD RANKING REGULATION

その道の専門家が議論を重ねて導入されたものだし、誰にとっても公平なシステムを設計するのはそもそも不可能なので、決めれたルール・制度の中でより上位を目指すしかありません。

WTTの厳しいところ

トップランカーほど有利

(中国のトップ選手を除いて)誰と対戦しても勝ち上がれる実力を備えていることが条件ですが、WRが高いトップランカーほどWRポイントを稼ぎやすい、有利な制度なのが実情です。

  • グランドスマッシュは世界ランク上位から48名程度、各協会最大6名の自動エントリーです。日本人女子の場合、6名だとせいぜいWR30位台までです。
  • チャンピオンズは世界ランク上位から30名、各協会最大4名の自動エントリーです。日本人女子の場合、4名だとせいぜいWR10位台までです。
  • ファイナルズは世界ランク上位から16名、各協会からの参加人数に制限なしの自動エントリーです。トップランカーだけが招待される、ボーナスステージのようなものですね。

WTTシリーズ上位3大会はWRポイントが高いので、これらに出場できないと競争上不利です。

WR20位以内の出場制限

コンテンダーとスターコンテンダーには、PDR(Play Down Restriction)と呼ばれる、WR20位以内の選手の出場制限があります。コンテンダーとスターコンテンダーはWR21位以下の選手を優先出場させる大会なのですが、WR20位以内の選手もコンテンダーは3名まで、スターコンテンダーは6名まで出場可能です。

2022年まではWR上位から3名/6名だったので、中国のトップ選手が出場しなかったコンテンダー、スターコンテンダーではランキング上位の選手が優勝しやすかった(ポイントを稼ぎやすかった)です。このこと自体は2023年も変わらないのですが、WR20位以内の選手のエントリーはホスト国に裁量権があるため、ランキング上位でエントリーしても拒否される可能性があります。

伊藤美誠選手と早田ひな選手は現在WR7位、8位あたりなのですが、(中国のTOP選手がエントリーしない大会で)エントリーしてもそれが通るかどうか事前に分からないというのは困りますね。

WTTになって良かったこと

WTTは、フィーダー大会含めてYouTubeチャンネルで積極的に試合の動画中継(リアルタイム配信)をしています。WTTの目的が卓球の商業化の促進なので当然そうするよねっていう話でもあるわけですが、これにより既存のファンは圧倒的な数の試合を自宅にいながら観戦できますし、新たにファンを増やす起爆剤になると思います。

僕は2021年から早田ひな選手が出場した国際大会、国内大会は全てネットで観戦していますが、ATTU/ITTFが主催した第25回アジア競技大会の中継試合数の少なさには泣きました。次回からは主催がどうであれWTTに運営して欲しいと思いました。

世界卓球2021ヒューストン大会を主催したのはITTFですが、試合情報のサイトでの公開、ネット中継などは全面的にWTTの運営でした。それでいいです。

なお、お気に入りの日本人女子の試合だけストリーミングされなかった(すっ飛ばされた)とか、スコア表示がなくて主審の声だけが頼りだったとか、スコアが10点以降は勝敗が決まるまで更新されないとか、中継に問題があるのも事実です。こういうことは適宜改善して行って欲しいです。

最悪だった2023年アジア選手権大会のネット配信

韓国で開催された2023年アジア選手権大会ですが、ネット配信が最悪でした。

  • ATTUのYouTubeチャンネルがT1からT4をリアルタイム配信しました。が、T1の試合でTV中継されるものは全世界でネット配信されないという、WTTの運営ではありえないものでした。さらにある日のT1の試合はTV中継されないものまでネット配信されないという極めて残念な対応でした。このATTUの対応に、ネット民から不満が噴出しました。
  • T1の試合でネット配信されないものはアーカイブも残っていません。

ざっくり準々決勝以降はT1での試合がTV中継対象になるため、そして準決勝以降はT1のみとなるため、レベルの高い試合ほどネット配信されない、アーカイブも残らないという最低な運営でした。WTTの運営に文句を言っていた人も、ネット配信に関してはWTTを見直したはずです。

まとめ

印象としては、WR10位以内をキープできる実力を維持し続けて(競争なので継続的な強化を怠らないで)、実際に大会で結果を残せる選手にとっては、WRポイントを稼ぎやすいシステムに見えます。11位以下に落ちるとだんだん苦しくなり、15位から20位あたりが最も出場制限がきびしくてつらいのではないでしょうか。

最大の問題は、WTTが満足な数の大会を開催できていないことです。フィーダー大会はまだ良い方ですが、コンテンダー以上のWTTシリーズは非常に少ないです。でも2023年は開催数が増えそうです。

国際大会に積極的に出場してWRポイントを稼ぎたい意思(と資金力がある)選手が、国内大会との重複を避けながら、少なくとも年間8大会以上出場できるだけの十分な開催数が欲しいです。規定ではスターコンテンダーとコンテンダーの合計で年間最大20大会開催可能なのですが、現状それは夢のような話です。

グランドスマッシュは年間最大4大会開催可能で、これに出場すると6週間はスターコンテンダー、コンテンダーの出場優先度が下がる仕組みになっているので、計画(規定)通りに運用できればより多くの選手にとって公平感のあるシリーズになると思います。ところがグランドスマッシュは商業イベントに振り切った結果、大会運営に億円単位の費用がかかるようです。

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