早田ひな選手はパリオリンピック選考レースで首位を独走中ですが、2位以下は数名の選手が僅差で並んでいます。早田ひな選手は独走体制を強固なものにしたいし、2位以下の選手は2枠しかないシングルスの代表権獲得のため、ライバルよりも多くポイントを加算したいところです。
早田ひな選手は決勝戦で天敵の伊藤美誠選手に勝って優勝しました。伊藤美誠対策が完璧でした。
*アイキャッチ画像はテレビ東京卓球情報のツイートからの引用です。
大会概要
- 期間:2023年7月22日、23日
- 場所:東洋大学赤羽台キャンパスHELSPO HUB-3アリーナ
- 種目:シングルスのみ
- 試合方法:選考資格を得た16名によるトーナメント
- 順位決定戦:8位まであり
- 試合形式:7ゲームマッチ
- 参照:日本卓球協会の公式ページ
今大会から出場選手が32名から16名に削減されました。妥当な判断だと思います。
順位に応じてパリ五輪選考ポイントが付与されます。
ネット中継・放送
ネット中継は、第1回、第2回、第4回パリオリンピック選考会と同じテレビ東京が担当しました。テレビ東京卓球チャンネルのYoutube配信です。従来同様、2本のストリーミングによる生中継+全テーブル全試合のアーカイブ動画という構成です。
総じて動画のアップは迅速で、テレビ東京卓球チャンネルには感謝しかありません。
また女子の準決勝戦がテレビ東京で、男女の決勝戦がBSテレ東で生中継されました。(女子の準決勝は第2試合を生中継、続いて第1試合が録画中継、途中大幅にカットして短縮でした。)
ただし、テレビ東京で放送された女子の準決勝第2試合(平野・伊藤戦)はYouTubeでの生配信がなく、TVerでも配信されず、テレビ東京を受信できない地域の人には不満の残るものでした。
出場選手
今大会から出場選手は32名から16名に削減されました。次はその16名の選考基準を要約したものです。
- 第4回パリオリンピック選考会ベスト8進出選手。
- 選考会30日前のパリオリンピック選考ポイント合計上位8名。
- 上記で16名に満たない場合、選考ポイント合計16位までを繰り上げる。
- それでも16名に満たない場合は以下の順番で16名に達するまで選出する。
①2023年4月発表のNT/NT候補選手の記載順
②2023年4月発表のJNT U-18選手の記載順
③上記①②おいて16名に満たない場合は16名に達するまで強化本部で推薦
組み合わせ
第4回パリオリンピック選考会まではドローが行われましたが、今大会はドローなしで組み合わせが発表されました。
これは最新の選考ポイントランキング順に、出場選手を素直にシードしたものです。そして過去4回の選考会で堅守されてきた、前回の対戦で負けた選手とは反対の山に入るルールは適用されませんでした。このことも含めて、ドローなしで組み合わせを決めたのは適切な判断だと評価しています。
最新の選考ポイントランキング順なので組み合わせに違和感はありません。結果的に(印象的には)右の山が激戦区になりましたが、これは時の運というほかないです。選考ポイントランキング順に素直にシードしただけで、恣意的な操作は全く行われていません。
早田ひな選手が入った左の山は相対的に勝ち上がり安い組み合わせなので、そのチャンスを活かして絶対に決勝戦まで勝ち上がらなくてはいけない大会になりました。
組み合わせについて触れた記事。
女子の見どころ。
大会初日の試合前練習。
従来のドロールールを踏襲しなかった理由
第4回選考会のドロールールを踏襲すると、ドロー運次第で左上の山に早田ひな選手、平野美宇選手、伊藤美誠選手、木原美悠選手が固まってしまう可能性がありました。次はそのひどいパターンの1例です。
その4選手が準々決勝までに当たってしまうのは流石に選考会の目的にそぐわない、まずいと判断されたのでしょう、本来ならドローが行われる日の前日にあたる7月20日に、前触れなく前記組み合わせが発表されました。事前に選手に案内されていなかったとしたら(その可能性は十分ありますね)、混乱させてしまったかも知れませんが、そうだとしても僕は適切な判断だと思っています。
そして今大会の組み合わせルールは、第6回パリオリンピック選考会にも適用されると考えています。
試合結果
早田ひな選手は決勝戦で伊藤美誠選手に勝って優勝しました。
パリオリンピック選考会での優勝は第1回、第4回に続く3回目です。
Round 16(1回戦)
山室早矢選手との対戦でした。山室選手は高校生のカットマンで、先日九州アスティーダからTリーグに参戦することが決まりました。
序盤は山室選手の球質に合わせるのに苦労していましたが、後半はしっかり攻略できました。
- 第1ゲーム、安定したカット打ちでリードを広げ、11-4でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、早田選手にややミスが出て5-7とリードされますが、そこから6連続得点して11-7でこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、第2ゲームよりカット打ちの精度が上がってリードを広げる展開になり、11-3でこのゲームも取って、ゲームカウントを3-0にします。
- 第4ゲーム、明らかに山室選手のボールを攻略した様子で危なげなく11-3で勝ち切り、どの大会でも難しい初戦をものにしました。
フル動画。
ハイライト。
試合結果を伝える記事。
木原美悠選手、長﨑美柚選手が初戦敗退。絶対に負けてはいけないR16で負けてしまいました。
準々決勝
芝田沙季選手との対戦でした。この試合はT3だったため中継がなく、現地で観戦している方のツイッターが頼りでした。
難敵にしっかり勝つことができて良かったです。
- 第1ゲーム、接戦で5-5まで競りますが、そこからエッジ、ネットの幸運もあって9-5とリードします。その後9-8と迫られて嫌な感じになりますが、芝田選手のミスに助けられて11-8でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、芝田選手のミドル攻めが効いて流れをつかみ、早田選手がリードを広げる展開になります。このゲームは11-4で危なげなく取ります。芝田選手とのラリーは荒れ球が多く、観ていてハラハラしますね。
- 第3ゲーム、再度接戦になり点差が開かない展開が続きます。8-8からの勝負どころでフォアハンドドライブで得点して絶叫し、台上技術とサービスエースで11-8としてこのゲームにも競り勝ち、ゲームカウントを3-0とします。
- 第4ゲーム、芝田選手に打ち負ける回数が増え、リードを許す展開になります。4-8から7-8まで追い上げたものの、後が続かず7-11で落としてしまいます。
- 第5ゲーム、実力拮抗で7-7まで競った後、なんとか9-8とします。取り切るのが難しい最後の2本を、ミドルへのフォアハンドの強打と遅い山なりのボールで決めて勝ち切り、準決勝進出を決めました。
試合後のインタビューでも触れていましたが、初戦が高校生のカットマンで2戦目が裏裏ドライブ型だったので、そのギャップの大きさに対応するのに神経を使ったはずです。過去には、カットマンと2連戦した後に平野美宇選手と対戦し、ボールの速度の違いに対応できなくて「らしくない」負け方をしたことがあります。
フル動画。
ハイライト。
1分間のハイライト。
試合後のインタビュー。
試合結果を伝える記事。
準決勝
大藤沙月選手との対戦でした。TリーグNOJIMA CUP 2023の3位決定戦でも対戦しています。
第3ゲーム以外は接戦になりましたが、勝負どころで失点しなかった早田選手が勝ちました。難敵を倒せて良かったです。
- 第1ゲーム、接戦で点差が開かない展開になり、8-8まで競ります。そこからラリー戦を制して絶叫し、チキータレシーブを決めて10-8とします。最後は大藤選手のミスを誘うサービスエースで11-8としてこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、動きが良くなり流れをつかんで7-3と大量リードしますが、大藤選手の逆襲にあって7-7と追い付かれます。大藤選手は甘いボールを見逃さずに強打して来ます。9-9からの勝負どころのレシーブ2本、ロングサーブに回り込んでフォアハンドドライブを決めて絶叫し、チキータレシーブで攻めて浮いたボールをフォアハンドでミドルに打ち込んで11-9とし、このゲームも取ります。
- 第3ゲーム、サーブからの組み立てが良くなって早田選手がリードする展開になります。大藤選手の良さを消す形で11-5でこのゲームも取り、ゲームカウントを3-0にします。
- 第4ゲーム、第3ゲームからの流れで5-1と大量リードしたものの、流れが変わって6-3から7連続失点してしまい、7-11で落としてしまいます。
- 第5ゲーム、実力拮抗の激しい打ち合い、相手の読みを外したプレーの応酬が続く中、流れをつかんで10-6と大量リードでマッチポイントを握ります。10-8まで追い上げられますが、最後回り込んでのフォアハンドドライブを決めて11-8で勝ち切り、決勝進出を決めました。
大藤沙月と選手、強かったです。3位決定戦で平野美宇選手と対戦したのですが、試合内容は互角でした。
フル動画、実況解説付き。
フル動画。
フル動画、別アングル。
この試合のスーパープレー集。
試合結果を伝える記事。
決勝
伊藤美誠選手との対戦でした。TリーグNOJIMA CUP 2023の準決勝戦でも対戦しています。
パリオリンピック選考期間の3度目の対戦でやっと勝てました。
- 第1ゲーム、早田選手はラリー戦に持ち込む戦略を選択します。互いにボールを広角に打って相手を振り回しますが、早田選手がリードを広げる展開になります。精度の高いプレーで得点を重ね、11-5でこのゲームを取ります。早田選手は左右に振られても長いリーチとフットワークでラリーに耐え、チャンスボールが来るのを待っているようでした。相当の準備を重ねてきたものと思われます。
- 第2ゲーム、伊藤選手らしい攻撃が増え、早田選手は逆にミスが増えて伊藤選手がリードする展開になります。6-10と大量リードでゲームポイントを握られますが、ここから我慢のプレーで10-10と追い付きます。ミドルのボールを身体を折りたたんでフォアハンドドライブで決めて静かに拳を握ります。11-10では世界レベルのラリーを制してこのゲームを逆転で取ります。最後の2本、コートに石田コーチのヨーという声が響きます。早田選手は試合後のインタビューで、第2ゲームを取れたのが大きかったと言っていました。
- 第3ゲーム、精度の高いプレーでリードを広げます。よく声が出ています。サーブは効いているし、レシーブの読みも良いです。最後はフォアハンドドライブの強打をミドルに決めて11-4でこのゲームも取り、ゲームカウントを3-0とします。
- 第4ゲーム、両者が持ち味を出して接戦になります。5-6と7-6の場面ではこの二人ならではラリー戦を制して絶叫します。そこから伊藤選手の逆襲にあい8-10とゲームポイントを握られますが、早田選手らしいプレーで10-10として大きな声を出します。ここから行き詰まる展開が続きますが、落とせば負ける伊藤選手もプレー内容は強気そのものです。余裕のある早田選手は笑顔でこの試合を楽しんでいるようでした。最後はこの試合(たぶん)5本目のミドルへのロングサーブで伊藤選手のネットミスを誘い16-14で勝ち切り、天敵に完勝して優勝を手にしました。
- また理由は分かりませんが、この試合ではハイトス(投げ上げ)サーブを1本も出しませんでした。
早田選手は以前から伊藤選手のことを「いつかは越えなければならない壁」と表現していました。直前の試合からの時間間隔や疲労感などの有利不利があってのことだと思いますが、今回は伊藤選手に勝つ戦術の確かな手応えを得られたはずです。
なお、この試合のベンチコーチは石田コーチではなくて、チームひなの金惠美コーチが務めました。決勝戦後のインタビューによると、チームひなとして意図的に試してみたような話でした。
フル動画、実況解説付き。
フル動画。
フル動画、固定カメラバージョン。
第4ゲーム9-10から全部見せ。フル動画のカメラアングルで観たい方はこちらから。
試合前練習。
優勝インタビュー。
決勝後インタビュー。必見です。
表彰式。
この試合のスーパープレー集。
早田選手の優勝を伝える記事。
左胸を気にしていたけど
決勝戦の第4ゲーム終盤、左胸を気にする仕草を見せました。(それぞれ数秒ずつ、仕草その1、仕草その2、仕草その3)何か違和感があったように見えました。
ひどく痛めてしまっていたらと心配しましたが、石田コーチのインスタによると6日後には元気に練習に取り組んでいましたし、2週間後に開催されたWTTコンテンダーリオデジャネイロ2023では仕上がりの良さを見せて優勝しました。
とにかく大きな問題にならなくて良かったです。
最終順位
最終順位(8位まで)と、獲得した選考ポイントです。
その結果を反映した、選考ポイント合計上位8名です。
大会終了後の選考レース状況について触れた記事。
こちらは高樹ミナさんの記事、おすすめ。
「内々定」を出してもいい張本、早田。
選考会に優勝して得たもの
この選考会の優勝者に付与される選考ポイントは100です。そのポイントを除くと、何かの大会の出場資格が与えられるなどの特典はありません。また、今年後半の国際大会の出場資格にも影響はありません。
が、選考ポイントを100追加して、選考レースの首位独走体制をより強固なものにできたことの意味は、今後出場を予定している大会に体調不良などで出られなくなる可能性(リスク)を考えると、非常に大きいです。
また、勢いで勝ったことしかない(パリオリンピック選考会期間中に2度負けている)伊藤美誠選手に4-0で勝って優勝できたことは、今大会最大の収穫であり、大きな自信につながったはずです。それは決勝戦後の囲みインタビューに表れていました。
おまけ
優勝決定後、視線の先には..👀☝️🏆✨
最後は石田コーチとグータッチ❤️🔥🏓第5回パリ五輪日本代表選考会
■女子決勝 #早田ひな 4-0 #伊藤美誠
11-5/12-10/11-4/16-14大会結果・トーナメント表👉https://t.co/qGgBLUuKRM#全農CUP #卓球 pic.twitter.com/IGHSVfT0ug
— テレビ東京卓球情報 (@tvtokyo_tt) July 23, 2023
大会終了後
石田コーチのインスタグラムから。
この投稿をInstagramで見る
早田ひな選手のツイート。
沢山の応援ありがとうございました🫶🏻 pic.twitter.com/kSxz3Vhyl9
— 早田ひな (@hayata_hina) July 25, 2023
第6回パリオリンピック選考会について
早田ひな選手は逆転不可能な選考ポイントを獲得できた場合、第6回パリオリンピック選考会には出ないで強化期間にしたいという考えを示していました。
今大会終了後のメディアとのインタビューでは、次のように話したようです。
2位以下に大差をつけた早田はといえば、最後の国内選考会となる第6回選考会に出場せずパリ五輪の準備に注力する可能性もあると見られているが、本人は「パリオリンピックで勝つために実力をつけているので、試合をするのはいいこと。体調や海外遠征のスケジュール次第で決める」とのこと。
その余裕を確かなものにするため、9月に開催されるアジア選手権とアジア競技大会でしっかりポイントを加算したいですね。
出場します
日本卓球協会は11月1日に第6回パリオリンピック選考会の出場選手を公表しました。早田ひな選手、出場します。
選考ポイント的にはほぼ出なくて良い状況ですが、全日本選手権大会に怪我や病気で出られなかった場合のことも考えて決断したのだと思います。その選択を支持しますし、全力で応援します。