パリオリンピックの選考レースは、日本独自の「パリオリンピック選考ポイント」で競われています。そして第3回パリオリンピック選考会の結果により、2023年の世界卓球選手権(個人戦)の出場メンバーが決まります。選考レースを優位に戦う上で、世界卓球選手権の出場権は逃したくないものです。
早田ひな選手は10月上旬に左腕を故障してしまい、治療のための休養に入りました。第3回パリオリンピック選考会に間に合わせることを目標にしていたのですが、元気に復帰して準優勝できました。間に合って本当に良かったです。
*アイキャッチ画像はフジテレビ特設サイトからの引用です。
大会概要
- 期間:2022年11月12日、13日
- 場所:船橋アリーナ(千葉県船橋市)
- 種目:シングルスのみ
- 試合方法:選考資格を得た32名によるトーナメント
- 順位決定戦:8位まであり
- 試合形式:7ゲームマッチ
- 参照:日本卓球協会の公式ページ
順位に応じてパリオリンピック選考ポイントが付与されます。
ネット中継・放送
ネット中継はフジテレビが担当しました。
- ネット中継はFODプレミアム(有料)が全試合をライブ配信しました。有料であっても、全試合をライブ配信してもらえるのはとてもありがたいです。
- フジテレビ系列の地上波で、男子決勝を録画で、女子決勝をライブで放送しました。
- フジテレビONE(CS)では1回戦から注目の試合を生中継しました。
FODプレミアムの見逃し配信期間が終了したら、卓球TVでアーカイブを公開して欲しいものです。テレビ東京が担当した場合はそういう心配が要らないので、できればテレビ東京が良かったです。
なお、テレビ東京卓球チャンネルが一部の試合のハイライト動画を公開していましたが、2023年1月にフル動画の公開も始めました。ありがたいです。早田選手の試合で動画が公開されたものがあれば都度追加します。
ドロー
ドローは大会前日に会場にて公開(YouTubeのストリーミング)で行われましたが、アーカイブは残っていません。
第2回大会の結果でシードされました。トップシード8名は色を塗ってあります。また従来どおり、前回の対戦で負けた選手とは反対の山に入るルールが適用されています。
ドローとは言っても前回大会で8位まで順位決定していること、前回の対戦で負けた選手とは反対の山に入ることから、ドロー運の作用は少ない印象です。(それでもありますね。早田選手は今回カットマンと当たらなかったのは実に幸運でした。)
試合結果
早田ひな選手は決勝で平野美宇選手に敗れて準優勝でした。
- なお、試合の動画は有料配信されたものしかないため、そのリンクをここに掲載できません。もし卓球TVなどでアーカイブが公開された場合には追記します。
- テレビ東京卓球チャンネルが一部の試合のハイライト動画を公開し始めています。該当する試合のハイライト動画が公開されたら随時リンクを追記します。
Round 32(1回戦)
高橋青葉選手との対戦でした。高橋選手は小学6年生です。ホープスナショナルチームのU-12予選会で出場資格を得ました。
ケガから復帰しての初戦で、不安もあったと思いますが、危なげなく勝てました。良かったです。
Round 16(2回戦)
井絢乃選手との対戦でした。全日本社会人卓球選手権大会に優勝して、出場資格を得ました。
スコア以上に接戦でした。勝てて良かったです。
- 第1ゲーム、点差が開かない展開が続きますが、終盤抜け出して11-8で取ります。両ハンドともにコントロール重視でプレーしている印象です。
- 第2ゲーム、接戦で7-7まで競りますが、そこから抜け出して11-8でこのゲームも取ります。攻め方が単調にならないように工夫しているようでした。
- 第3ゲーム、接戦で8-8まで競りますが、そこから3連続得点してこのゲームも11-8で取ります。
- 第4ゲーム、早田選手がリードする展開で一時5点差を付けますが、井選手に10-7まで追い上げられます。最後は井選手のサーブミスで勝ち切り、ベスト8進出を決めました。
ベスト8に進出したことで、12月中旬の選考ポイント合計上位5名に付与される、来年の世界卓球選手権の出場資格を確実なものにしました。おそらくチームヒナも最低目標をここに置いていたのではないでしょうか。
準々決勝
張本美和選手との対戦でした。
どちらが勝ってもおかしくない試合でした。この1勝は大きいです。(選考会での早田選手には、そういうのが少なくないですが。)
- 第1ゲーム、接戦で7-7まで競りますが、そこから抜け出して10-7とゲームポイントを握ります。そこで決めきれずデュースに持ち込まれますが、ミドル深くを連続で攻めて12-10で取ります。このゲーム、フォアハンドドライブのオーバーミスが目立ちました。
- 第2ゲーム、点差が開かない展開が続きますが、守りに入ることなく攻め抜いて11-9でこのゲームも取ります。フォアハンドドライブの強打は精度が低いものの、得点できる攻撃パターンを探しながら戦っている印象です。
- 第3ゲームも接戦で9-9まで競りますが、最後強気のバックハンドによるミドル攻めが決まって11-9で取り、ゲームカウントを3-0にします。
- 第4ゲーム、張本選手の強打が決まる回数が増え、6-11で落としてしまいます。
- 第5ゲーム、接戦で8-8まで競ったものの、8-11でこのゲームも落としてしまい、ゲームカウントは3-2になります。今日残っている力を振り絞って戦っている感じです。
- 第6ゲーム、5-1と流れをつかんだかに見えましたが、その後追いつかれて7-7になります。10-8とマッチポイントを握りますが、台上技術のミス2本でデュースになります。体力的にフルゲームにされたくなかったところ、何とか張本選手を振り切って12-10で勝利しました。
中継用カメラのマイクが石田コーチの近くにあり、その声をはっきり拾っていました。いつもそうだと思うのですが、早田選手と一緒に戦っていることが伝わり胸熱です。
フル動画。
ハイライト。
準々決勝後のロングインタビュー。必見です。世界卓球選手権の決勝戦に出ていたら、この選考会にはまず出られていなかったそうです。
#早田ひな 準々決勝後インタビュー🔥
「奇跡に近い試合が多かった。試合のモードになって練習したのが2日前。(準決勝は)思い切って、チャレンジャーな気持ちで頑張りたい。」■準決勝 ⏰12:00〜
早田ひな🆚#木原美悠#全農CUP #TOP32 船橋大会🏓#船橋アリーナhttps://t.co/qlF7cEMuwv pic.twitter.com/LDvnlvQysz— 日本卓球協会 (@jtta_official) November 13, 2022
インタビューにもありましたが、この勝利は「奇跡」だったそうです。
「ケガから復帰してから(期間が短く)体力面でもフラフラの状態でしんどい試合だったが、全て我慢して、最後は入れたもの勝ちと(腕を振った)。体力は自分の方がないとわかっていたので、勝ち残れたのは本当に奇跡」と感慨を込めた。
この選考会に間に合って良かったです。
「復帰しても体力面を作る期間がなかった。最後はフラフラの状態でしんどい試合だった。(最終日に)残れたことが奇跡」
「世界選手権の決勝戦を出るか出ないか判断してくださったスタッフさんをはじめ、病院の先生、治療の先生。そういった方たちに本当に助けられてここに立つことができた。すごく感謝してます」
準決勝
木原美悠選手との対戦でした。
体力的に厳しかった試合に勝てたのは、実力だけではない他の要素も大きかったと思っています。勝てて良かったです。
- 第1ゲーム、流れをつかんでリードを保つ展開になり9-5としますが、木原選手に追い上げられて9-9になります。10-9でゲームポイントを握るもデュースに持ち込まれますが、木原選手の追撃を振り切って12-10で取ります。このゲームを取れたのが大きかったです。
- 第2ゲームも流れをつかんで9-2と大量リードしますが、木原選手に追い上げられて9-5、10-7になりますが、攻め切って11-7でこのゲームも取ります。
- 第3ゲームもリードを保つ展開で10-5と大量リードでゲームポイントを握ります。10-7とされてタイムアウトを使い、なんとか11-8で取ってゲームカウントを3-0とします。
- 第4ゲーム、接戦になりますが、早田選手にややミスが出たこと、木原選手の攻撃が決まる回数が増えたことにより、8-11で落とします。
- 第5ゲーム、木原選手に先行される展開になりますが、7-7まで追い上げます。が、その後4連続失点で7-11でこのゲームも落とし、ゲームカウントは3-2になります。
- 第6ゲームも接戦で7-7まで競りますが、精度の高いプレーで10-7とマッチポイントを握ります。フルゲームになるのは避けたいところ10-9とされますが、最後コースを突いたフォアハンドが決まって11-9で勝ち切りました。
勝利した瞬間のリアクションに、苦しかった対戦をものにした喜びが表れていました。
フル動画。07:12あたりから。
第6ゲーム途中から試合終了まで。
決勝
平野美宇選手との対戦でした。
2ゲーム先取できたものの、その後は平野選手の良さが出て完敗でした。平野選手、強かったです。
- 第1ゲーム、5-9と大量リードされますが、そこから6連続得点して11-9で取ります。
- 第2ゲーム、流れをつかんで9-2と大量リードしますが、そこから平野選手の5連続得点で9-7まで迫られます。最後ネットインで何とか11-8で取ります。
- 第3ゲーム、第2ゲームの後半の流れを引き継いだ平野選手が10連続得点で圧倒し、4-11で落とします。
- 第4ゲーム、平野選手の攻撃が決まる回数が増え、5-10と大量リードを許します。それでも諦めない早田選手は9-10と1点差まで迫ったものの、9-11でこのゲームも落とします。
- 第5ゲーム、平野選手が勢いに乗ったのと対称的に、早田選手は攻撃が決まらなくなり、3-11で落とします。
- 第6ゲーム、第5ゲームの悪い流れを変えられず、5-11で圧倒されて敗戦となりました。
僕は早田選手を応援していますが、正直、悔しい気持ちはまったくなく、好調さを取り戻した強い平野選手を祝福できました。
フル動画。07:30あたりから。
ハイライト。
決勝戦後の、早田選手のコメント。今大会、フォアハンドの強打のミスが目立ったのは、練習できていなかったからですね。
「決勝に残れたのはうれしかった。でも、決勝の3ゲーム目からは、自分がゲームを変えられなかった。この2週間、強打の練習をしていなかった。行けると思った時にミスが多く出てしまった」
コンディションによっては、準決勝を棄権する可能性がありました。出場できたことより、前日に3試合戦っても問題がなかったことが良かったです。
4強入りを決めた12日の試合後、準決勝の出場は当日の状態を見て判断する考えを示していたが「朝起きた段階で違和感がなかった」とコートに立つことを決めたという。
「試合まで大丈夫かなっていうぐらい、練習から結構きつかった」と苦笑。一方で、思うように体が動かない状況でも工夫しながら戦うことにより「自分の中で面白い発見があった2試合」と収穫もあった。
決勝戦後のインタビュー。必見です。
#全農CUP #TOP32 船橋大会🏓
準優勝 #早田ひな 試合後インタビュー🔥
「反省点が見つかった。悔しい部分もあるけど、さらに自分を強くしてくれる機会だった」○1回戦 4-0 高橋青葉
○2回戦 4-0 井絢乃
○準々決勝 4-2 張本美和
○準決勝 4-2 木原美悠
●決勝 2-4 平野美宇 pic.twitter.com/YcoUVx71o2— 日本卓球協会 (@jtta_official) November 15, 2022
インタビューの最後1分あたりでの話です。練習の効果を上げつつ、故障のリスクを減らせるといいですね。
「無駄な練習を如何にやらない、それが体力を消耗する無駄な練習ならなおさらやらない、という選択をどんどんしていかないと、私の場合はケガをしてしまうことにつながると思う。」
最終順位
最終順位(8位まで)と、獲得した選考ポイントです。
その結果を反映した、選考ポイント合計上位8名です。
積み上げグラフにすると状況が良く分かります。早田選手は安定してポイントを積み増しできています。
早田選手はケガからの復帰戦で準優勝することができ、その結果ダントツで1位をキープすることができました。
この選考会で得たもの
早田ひな選手は準優勝で選考ポイントを45積み上げることができました。この選考会に出場できていなかった場合、来年の世界卓球選手権への出場権獲得が危なくなる可能性がありましたが、しっかりポイントを増やすことができました。これにより、パリオリンピック選考レースで重要な大会となる、2023世界卓球選手権(個人戦)への出場権獲得は確実になりました。(コンディションを整えて、来年1月開催予定のアジア大陸予選会に出場することが条件になります。)
また、試合の中での収穫もあったようです。
2週間はラケットを握らない完全休養期間も設けるなど、体力面と試合勘に不安を抱えた中で優勝争いを演じただけに「決勝に残れてまずはうれしかった。100%じゃなかったが、最初2ゲーム取って自分がビックリした」と笑顔。詳細は伏せたものの、新たに取り組んでいるプレーも試せたといい「(状態が)100%に戻ったときに成長するチャンス。負けはしたが、平野選手と対戦できて良かった」と収穫にうなずいた。
大会終了後
早田ひな選手のツイートです。
全農CUP TOP32船橋大会では沢山の応援ありがとうございました🙇♂️
まず、この選考会の舞台に立てたことに感謝しています。怪我のあと沢山の方に支えていただき、復帰する事が出来ました。
今回また新たな課題が沢山見つかったので、頑張っていきたいと思います。
引き続き応援宜しくお願いいたします。 pic.twitter.com/0SGIR7f94N— 早田ひな (@hayata_hina) November 14, 2022
石田コーチがインスタグラムストーリーズで、気がかりだったことについて明かしてくれました。ありがたいです。次はその要約です。
- 医師やトレーナーなど多くの人から練習再開可能との判断をもらい、すぐにでも練習したいところを我慢して我慢して、本当にギリギリのタイミングで再開した。
- 試合では最低限のできることで、無理しないで戦うことを目指した。難しかった。
- それでも大切な試合であれだけのプレーができたことに感謝。
- 卓球が大好きなひなにとって練習、試合ができないのは誰よりもしんどいこと。それでも笑顔で頑張った。
- ご心配いただいていますが、選考会を戦い抜いても元気です。
早田選手が(選考会を戦い抜いた後も)元気だと分かって安心しました。
今後について早田選手はこのように語っています。
今大会を終えて、世界選手権代表に内定できたことはとても嬉しいです。この結果は今大会だけでなく、今までの実績の積み重ねだと思うので、世界選手権シングルスでしっかりと勝てるように練習内容を見直し、無駄を省いた練習で自分自身を作り上げていきたいと思います。
おまけ
卓球ジャパン!平野美宇復活SPから第3回パリオリンピック選考会の決勝戦を切り出した公式動画。