ITTF(国際卓球連盟)主催の多くの国際大会は、2021年からWTTシリーズに置き換えられました。そのシリーズで最上位に位置するのがWTTグランドスマッシュです。大会の規模、付与されるWRポイント、賞金総額、出場メンバー、どれをとっても最上級です。
そして大会運営費も最上級であるため、年最大4回開催可能としているものの、これまで年1回、WTT本部があるシンガポールでしか開催されていません。
この記事では早田ひな選手が出場したWTTグランドスマッシュ大会をまとめています。
*アイキャッチ画像はテレビ東京卓球情報のツイートからの引用です。
WTTグランドスマッシュ
- オリンピック、世界卓球選手権大会(個人戦)と同列のWTTシリーズ最上位大会です。
- 年間最大4大会開催可能ですが、大会運営に億円単位の費用がかかるため、開催できる国・協会が限られるようです。
- 本戦10日、予選2~3日のゆったりした日程。
- シングルス、ダブルス、混合ダブルスの3種目を実施。
- シングルスの本戦は64名、うち8名は予選64名を通過した選手。
- ダブルス24ペア、混合ダブルス24ペア(共に予選なし)。
- シングルスは本戦、予選合わせて各協会から6名までしか出場できません。また世界ランク上位者から優先出場となっています。
- 世界ランク20位以内の選手参加規制はありません。
- ワイルドカード枠4名、WTT推薦枠2名。
- 出場資格を持つ選手が病気や怪我以外の理由で辞退した場合、ペナルティの対象となります。
- シングルスのシード数は16。(2022年までは8。)
- シングルスの準々決勝、準決勝、決勝のみ7ゲームマッチ、他はすべて5ゲームマッチ。
- 優勝選手には2,000ポイントが付与されます。WTTチャンピオンが1,000ポイント、WTTスターコンテンダーが600ポイントですからダントツの高さです。
付与されるWRポイント
WTTシリーズを含む国際大会で付与されるWRポイント一覧です。WTTグランドスマッシュはポイントも別格です。
出典:ITTF TABLE TENNIS WORLD RANKING REGULATION
オリンピックは4年に1回、しかも各協会から出場できるのは最大2名という制限があります。世界卓球選手権(個人戦)は2年に1回、各協会から出場できるのは最大5名です。(出場して)優勝する難易度は異なりますが、WTTグランドスマッシュにオリンピック、世界卓球選手権と同じWRポイントを付与しているところに、WTTが目指す将来像が見えるような気がします。
世界卓球大会個人戦との違い
WTTグランドスマッシュはWTTシリーズ最上位大会で、優勝時のWRポイントが2,000と世界卓球大会個人戦と同じです。が、両者には大きな違いがあります。
伝統のある世界卓球に対し、グランドスマッシュは興行面を重視して制度設計したと思われます。
- 優勝時のWRポイントが2,000もある最上位大会を年間最大4回開催可能としている時点で、ITTFが管轄している世界卓球と違う方向性を志向しているのは明らかです。
- が、グランドスマッシュは2022年、2023年にシンガポールで1回開催されただけでした。(大会開催に1億円以上かかるのが要因との噂あり。)2024年は3回開催する予定とされています。
- グランドスマッシュはシード数が16しかないため、ドローゲーム(ドロー運が占める要素が非常に強い)になっています。世界卓球は32あるので、相対的にひどいドローになりにくい印象です。
- WTTが意図的にアップセット(波乱、下剋上)を増やすため、グランドスマッシュの7ゲームマッチを準々決勝以降に制限しています。世界卓球は全試合7ゲームマッチです。僕はシングルスは全試合7ゲームマッチがいいと思っています。
- 世界卓球は初戦に限り同一協会からの選手が対戦しないようにドロー調整を行います。グランドスマッシュにはその配慮はありません。
早田ひな選手が出場したWTTグランドスマッシュ大会一覧
大会名は「シンガポールスマッシュ」でWTTが付きません。
2021年は開催されませんでした。
シンガポールスマッシュ2022(2022年3月7日から20日)
- シングルスは準々決勝まで勝ち進み、孫穎莎選手と対戦できたことは大きな収穫だったはずです。獲得したポイントは350で、これは決して少なくないです。(WTTコンテンダーの優勝ポイントが400です。)
- みまひなペアのダブルスは、決勝まで進んだものの、今大会調子が上がらないまま終わってしまった印象です。二人が共に好調でないと孫穎莎/王曼昱ペアには勝てません。
- はりひなペアの混合ダブルスは、ベスト8という非常に残念な結果に終わりました。何が悪かったは、張本智和選手、早田ひな選手が良く分かっていることでしょう。これからさらに強くなると信じています。
シンガポールスマッシュ2023(2023年3月7日から19日)
- シングルスはR32でスターシニー選手に負けてしまい、非常に悔いが残る結果になりました。
- ダブルスは明らかに調整不足で実力を発揮できず、陳夢/王芸迪ペアに負けてベスト4でした。
- 混合ダブルスは樊振東/王曼昱ペアを破って決勝に進みましたが、王楚欽/孫穎莎の世界最強ペアに負けて準優勝でした。
シンガポールスマッシュ2024(2024年3月10日から17日)
- シングルスはドロー運が悪くR64(初戦)で平野美宇選手に当たり、コンディションが100%でなかったこともあってストレートで負けてしまいました。
- 混合ダブルスは状態を上げて準決勝に進みましたが、韓国最強ペアに負けてベスト4でした。これではりひなペアは世界ランク3位に後退し、オリンピックの第2シード確保に赤信号点灯です。オリンピックのシード確定まで、ポイント付与対象の混合ダブルスには出続けるしかないですね。また、相応の練習をしないといけません。
- 混合ダブルスで700ポイント加算できたことで、2024年4月11日、12日にチェコで開催されるパリオリンピック混合ダブルス世界予選会を回避し、翌週のワールドカップマカオ2024(個人戦)に専念することができました。エントリーしていたパリオリンピック混合ダブルス世界予選会は、シンガポールスマッシュ後にキャンセルされました。
- 早田ひな選手は3月8日に体調不良になったと伝えられましたが、そこから完全に回復できないまま今大会を迎え、混合ダブルスの準決勝で負けた後もコンディションが100%でなかったと言っていました。年に数回体調不良になりますが、長引くことがあるし、オリンピック本番を迎えるにあたって心配になりますね。
サウジスマッシュ2024(5月1日から11日)
- シングルスはR16で絶対に負けられない鄭怡静選手に、準々決勝では王曼昱選手を倒して勝ち上がって来たバトラー選手に勝って準決勝に進出しました。この難敵の2選手にしっかり勝てたことは、対策練習が効果的だったことを示しています。
- 準決勝戦での陳夢選手は完璧で隙がなく、完敗でした。現在の早田ひな選手の実力では勝ち目はありませんでした。この敗戦を糧に、陳夢選手に痛感させられた弱点を克服すべく、努力を重ねるしかありません。
- グランドスマッシュでベスト4になれたので、WRポイントを700獲得できました。月末に世界卓球2023ダーバン大会で得た700ポイントの失効を控えていたので、大きなポイントを補充したいところでした。今大会で獲得した700ポイントは、中国四天王に滅多に勝てない現状ではとても大きいです。
- 早田ひな選手は勝ち上がる大会で、ファンの心臓に悪い試合をどこかですることが多いのですが、今大会は鼻血を出したアクシデントでした。10分間のメディカルタイムアウトは生きた心地がしなかったし、その後も試合中に鼻血が再度出始めないかとハラハラしました。
- 混合ダブルスは準決勝で王楚欽/孫穎莎ペアに負けてベスト4でした。第2シードでないとドロー運(確率1/2)で準決勝で中国ペアに当たってしまいます。