WTTコンテンダーは世界ランク21位以下の選手向けの大会ですが、2023年は開催数が少ないため世界ランク10以内の選手も積極的に参加しているのが現実です。出場選手の顔ぶれによって難易度が大きく変わるため、世界ランクを上げたい選手は自然と多くの大会に挑戦するしかないのが現状です。
早田ひな選手は世界卓球2023ダーバン大会以来の国際大会出場で、シングルスのみにエントリーしましたが、準決勝で孫穎莎に敗れてベスト4でした。優勝したのは平野美宇選手でした。
*アイキャッチ画像はテレビ東京卓球情報のツイートからの引用です。
WTTコンテンダー
- シニア向けWTTシリーズの最下位大会です。(WTTフィーダーシリーズはWTTシリーズではありません。)
- 年間最大14大会開催可能です。
- 本戦4日、予選2~3日の日程で選手によっては1日に4試合に出場します。
- シングルス、ダブルス、混合ダブルスの3種目を実施。
- シングルスの本戦は32名、うち8名は予選を通過した選手。
- 予選人数は48、64、96名から開催国が選択します。
- ダブルス、混合ダブルス本戦16ペア、うち4ペアは予選を通過したペア。
- シングルスは各協会から4名までしか出場できません。(世界ランク20位以内の選手を除きます。)また世界ランク21位以降の上位者から優先出場となっています。
- 世界ランク20位以内の選手は、全体で3名しか出場できません。ホスト国はその3名を選ぶ裁量権を持ちます。
- ワイルドカード枠3名、WTT推薦枠1名は上記制限の対象外。
- 前6週以内にグランドスマッシュまたはチャンピオンズに出場した選手は優先度が下がります。
- シングルスの決勝のみ7ゲームマッチ、他はすべて5ゲームマッチ。(2023年からシングルスの準決勝を5ゲームマッチに変更。)
- 優勝選手には400ポイントが付与されます。
WTTコンテンダーザグレブ2023
- 期間:2023年6月26日から7月2日
- 場所:クロアチアのザグレブ(日本との時差7時間、現地10:00が日本の17:00)
- 出場種目:シングルスのみ
- 参照:WTT公式サイト、日本卓球協会の公式サイト
- パリ五輪選考ポイント付与対象ではありませんが、打倒中国ポイントの獲得対象です。
ネット中継
- WTTがYoutubeチャンネルでT1からT4をリアルタイム配信しました。
- テレビ東京卓球チャンネルは最後の2日間のみT1をリアルタイム配信しました。
- テレビ東京卓球チャンネルはアーカイブの公開が迅速ですが、WTT公式チャンネルはしばらく待たされることがあります。
シングルス出場選手
本戦から出場する24名の顔ぶれです。孫穎莎選手はWTT推薦、木原美悠選手と平野美宇選手は開催国ワイルドカード枠でのエントリーでした。
早田ひな選手はWR8位で第3シードでした。
日本人女子で出場したのは早田ひな選手、木原美悠選手、平野美宇選手、張本美和選手、長﨑美柚選手、小塩遥菜選手、予選から笹尾明日香選手、森さくら選手でした。
WTTコンテンダーに孫穎莎選手が(推薦枠とは言え)エントリーするのは厳しいですね。
シングルス:ベスト4
順当なら準々決勝でチュ・チョンヒ選手か田志希選手と、準決勝で孫穎莎選手と当たるドローでした。最近好調のチュ・チョンヒ選手だと対戦経験がなく苦労するかなと思っていましたが、代わりに田志希選手が勝ち上がってきたのは運が良かったと言えるかも知れません。
早田ひな選手は準決勝で孫穎莎選手に敗れてベスト4でした。付与されたWRポイントは140でした。
Round 32(1回戦)
香港の杜凱琹(トガイキン)選手との対戦でした。
第1ゲームは危なく落とすところでしたが、第2ゲーム以降は順応し、ストレートで勝つことができました。
- 第1ゲーム、杜凱琹選手の球質に合わせられないのかミスが目立ちますが、すぐに修正して10-8とゲームポイントを握ります。ここからバックハンドにミスが出てデュースに持ち込まれますが、勝負どころでしっかり攻めて13-11でこのゲームを取ります。5ゲームマッチなので第1ゲームを取れたのは大きかったです。早田選手は杜凱琹選手のサーブに苦労していましたが、フォアハンドの精度は高かったので、調子は良いと思いました。
- 第2ゲーム、4-4まで競りますが、そこから流れをつかんで引き離し、11-4でこのゲームも取ります。レシーブに苦労しなくなり、杜凱琹選手のミドルを効果的に攻めることができました。
- 第3ゲーム、精度の高いプレーで流れをつかみ、8-3と大量リードします。9-6まで追い上げられますが、最後フォアハンドでしっかり攻めて11-6で勝ち切り、難しい初戦をものにしました。
プレー内容から早田選手の状態は良く、勝ち進むことでさらに調子を上げられると思いました。
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ハイライト。
Round 16(2回戦)
日本生命レッドエルフでチームメイトの森さくら選手との対戦でした。森選手は予選からの出場でした。
森選手は攻撃力が高く、スコアより接戦でした。勝てて良かったです。
- 第1ゲーム、接戦で点差が開かない展開になりますが、フォアハンドドライブを効果的に決めた早田選手が11-8で取ります。
- 第2ゲーム、ラリーは互角なものの、サーブが効果的な早田選手がリードする展開になります。サービスエースが多いのはいいのですが、バックハンドの精度がやや悪いのが気になります。最後もサービスエースで11-7で取ります。
- 第3ゲーム、バックハンドの精度はやや悪いものの、フォアハンドの強打はほぼミスなし、サーブもコントロールが効いてエースも取れる状態なのに、何かスッキリしません。嫌な展開で9-9とされたところで、やっとコーナーを突くバックハンドドライブで10-9としたものの、バックハンドのミスでデュースに持ち込まれます。ここからフォアハンドの強打、台上技術にもミスが出て11-13で落としてしまいます。流れが一気に悪くなってしまいました。
- 第4ゲーム、早田選手は別人になったかのように動きが良くなります。バックハンドの精度が上がり、9連続得点で9-0とします。その間、一度も吠えていません。こんなに静かな早田選手は記憶にないです。その後、森選手の逆襲にあいますが、11-4で勝ち切って準々決勝進出を決めました。結局、第4ゲームはミスをした後のセルフトークはありましたが、一度も大きな声を出しませんでした。
第3ゲームまで、バックハンドの精度とラリー中のボールとの距離感が悪かったのは課題ですね。第4ゲームではしっかり修正されていましたが、対戦相手がもっと強いと手遅れになります。
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試合結果を伝える記事。
準々決勝
韓国の田志希(チョン・ジヒ)選手との対戦でした。強敵です。
早田選手は仕上がりが良く、強敵との接戦に勝つことができました。
- 第1ゲーム、両者思い切りの良いプレーの応酬が続きます。早田選手は良く声が出ています。7-7からバック対バックのラリー戦、サーブ3球目を回り込んでのフォアハンドドライブで決めて9-7とします。この後、田志希選手にミスが出て11-7でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、接戦で点差が開かない展開になりますが、サーブが効き、ネット・エッジにも助けられて9-7とリードします。ここから左対左の生命線と言われるバック対バックのラリー戦を制して10-7とし、最後は逆モーションのフリックを決めて11-7でこのゲームも取ります。早田選手はプレーの精度が高いです。
- 第3ゲーム、接戦で5-5まで競りますが、そこから田志希選手に押される形でミスを連発して5-8とリードされます。すぐに8-8に戻したものの、8-11と田志希選手に押し切られてしまいます。
- 第4ゲーム、レベルの高いプレーの応酬が続き、6-5まで競ります。ここから流れをつかんで一気に引き離し、11-6で勝ち切って孫穎莎選手が待つ準決勝進出を決めました。なお早田選手、第4ゲームはほとんど声を出しませんでした。
この試合、ネット・エッジに助けられる場面が多かった印象です。強敵との対戦なので、そういうことも必要ですね。
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みんスポからの公式動画。
試合結果を伝える記事。
この試合のスーパープレー。
準決勝
孫穎莎選手との対戦でした。世界卓球2023ダーバン大会の準決勝の再戦になりました。
実力差を感じる試合になりました。孫穎莎選手、強すぎます。
- 第1ゲーム、状態の良い孫穎莎選手に対し、早田選手はミスさせられている感じでリードを広げられます。サーブ、レシーブ、ラリーのすべてで上回った孫穎莎選手に対し、早田選手はフォアハンドドライブもミスになり5-11で落としてしまいます。
- 第2ゲーム、レベルの高いプレーの応酬が続きます。これまでの試合なら決まっていたボールでも孫穎莎選手は打ち返してきます。チキータレシーブからの展開でも得点できるようになって9-8まで競りますが、そこからミスが出て9-11でこのゲームも落としてしまいます。中国のトップ選手は最後の2点を取らせてくれません。
- 第3ゲーム、孫穎莎選手の球質が高いせいか早田選手は両ハンドのミスが目立ち、3-6とリードされます。そこから修正して6-6としたものの、孫穎莎選手のボールを攻略できず7-10とマッチポイントを握られます。9-10まで粘りましたが、最後は早田選手のチキータレシーブを待っていたかのようにストレートコースにカウンターされ、9-11で敗戦となりました。
第2ゲーム、第3ゲームともに9-11でしたが、内容的には孫穎莎選手に圧倒された試合でした。孫穎莎選手は早田選手のサーブ、レシーブを読み切って得点につなげたのに対し、早田選手はラリー戦の勝率を上げるのが遅かった上に、フォアハンドの強打もミスになることが多かったです。現在の弱点・課題をたくさん教えてくれる試合になりました。
フル動画。
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この試合のスーパープレー。
まとめ
7月と9月にWRポイントが大量に失効する早田ひな選手としては、今大会で優勝して400ポイント獲得したいところだったと思います。ところがWTT推薦枠で孫穎莎選手がエントリーし、準決勝で当たるドローとなってしまった結果ベスト4止まりで、140ポイントしか獲得できませんでした。
でも、世界卓球2023ダーバン大会に続いて孫穎莎選手と対戦したことで、多くの課題を見つけると共に通用する技術の確認もできました。石田コーチのインスタグラムのコメントからもそう読み取れました。これはWRポイントには代えられない貴重な経験になったはずです。
平野美宇選手が優勝
決勝戦で平野美宇選手がフルゲームを制して孫穎莎選手を下して優勝しました。孫穎莎選手は2019年に伊藤美誠選手に負けてからは中国人選手以外に無敗を続けていたので、歴史が動いたと言える勝利でした。この孫穎莎選手に勝って優勝したことの意味は極めて大きいです。
- 平野美宇選手だけでなく、多くの日本人選手に希望と勇気を与えたはずです。
- WRポイントを400獲得し、WRを14位ぐらいまで上げたことで、9月のアジア選手権、アジア競技大会でのシードが有利になります。
- WRで日本人選手3番手に上がり、WTTシリーズにエントリーしやすくなります。
- 打倒中国ポイント15を獲得したことで、選考ポイントランキング3位との差を36.5に広げました。