WTTコンテンダーには、世界ランクが20位以内の選手は全部で4名までしか出場できません。早田ひな選手が出場できる場合、出場メンバー的に優勝を狙える可能性が高いです。
WTTコンテンダーアルマトイ2022では早田選手はトップシードであり、コンテンダーの開催数が少ない中、出場メンバー的にも優勝するしかない大会でした。そして期待通り、シングルスとダブルスで優勝して2冠を達成しました。
*アイキャッチ画像はWTT公式サイトからの引用です。
WTTコンテンダー
- シニア向けWTTシリーズの最下位大会です。
- 年間最大14大会開催可能ですが、2022年年初から8月末までの開催数はわずか5です。
- 本戦4日、予選2~3日の日程で選手によっては1日に4試合に出場します。
- シングルス、ダブルス、混合ダブルスの3種目を実施。
- シングルスの本戦は32名、うち8名は予選を通過した選手。
- 予選人数は48、64、96名から開催国が選択します。
- ダブルス本戦16ペア、うち4ペアは予選を通過したペア。
- 混合ダブルス8ペア(予選なし)。
- シングルスは各協会から4名までしか出場できません。また世界ランク21位以降の上位者から優先出場となっています。
- 世界ランク20位以内の選手は、全体で4名しか出場できません。
- 前6週以内にグランドスマッシュまたはチャンピオンズに出場した選手は優先度が下がります。
- シングルスの準決勝、決勝のみ7ゲームマッチ、他はすべて5ゲームマッチ。
- 優勝選手には400ポイントが付与されます。
ところが実際に出場している選手の顔ぶれを見ると、このルールが厳密に運用されていないことにびっくりします。
大会情報
- 期間:2022年9月13日から18日
- 場所:カザフスタンのアルマトイ(日本との時差3時間、現地10:00が日本の13:00)
- 出場種目:シングルス、ダブルス
- 参照:WTT公式サイト
- パリ五輪選考ポイント付与対象ではありません。
ネット中継
- WTTがYoutubeチャンネルでT1からT4をリアルタイム配信しました。
- テレビ東京卓球チャンネルは本戦4日目、5日目(最後の2日間)のみをリアルタイム配信しました。(T1だけでしたがありがたいです。)
- どちらかのチャンネルでフル動画のアーカイブが公開されています。
シングルス出場選手
本戦から出場する24名の顔ぶれです。中国のトップ選手は出場しておらず(世界卓球選手権が近いため回避したのもあると思われます)、早田ひな選手にとって優勝を狙うまたとないチャンスになりました。
早田ひな選手はWR6位で第1シードでした。
中国人選手は本戦1名、予選12名の合計13名でした。それでも、このメンバーなら優勝するしかないです。
シングルス:優勝
早田ひな選手はR32で中国の銭天一選手、準決勝で平野美宇選手に当たるドローでした。初戦が事実上の決勝戦だと言う人もいましたが、それは平野選手に失礼ですね。
早田選手は強敵の銭天一選手、平野選手に勝って決勝に進み、癖の強いペンフォルダーのユ・フ選手を倒して期待通り優勝しました。獲得したWRポイントは400でした。
Round 32(1回戦)
中国の銭天一選手とは2019年以来の対戦でした。
3-0のストレート勝ちでしたが、接戦になった第2ゲームを落としていたら危なかったかも知れません。
- 第1ゲーム、精度の高いプレーで流れをつかんで9-3と大量リードします。そこから9-6と追い上げられますが、11-7で取ります。
- 第2ゲーム、ややミスが増えて接戦になり、点差が開かないまま10-8まで競ります。最後はチキータをミドルに決めて11-9でこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、2-4と流れが銭天一選手に流れそうになりますが、そこから強気の攻撃が連続で決まり、9連続得点して11-4で勝ち切ります。
(第2ゲームを除いて)早田選手は両ハンドともに好調、サーブからの組み立ても良く、試合を支配していた印象です。絶対に負けられない試合を期待通りものにできて良かったです。
フル動画。
ダイジェスト。
この試合のスーパープレー。
Round 16(2回戦)
スウェーデンのカットマン、リンダ・ベリストレム選手との対戦でした。王曼昱選手も手こずる難敵(ダイジェスト動画)です。
ストレート勝ちしましたが、第3ゲームは落としていてもおかしくなかったです。
- 第1ゲーム、点差が開かない展開で7-7まで競りますが、そこから10-7とリードします。ベリストレム選手に流れを渡さず11-8で取ります。
- 第2ゲームも我慢の卓球が続きます。ミスを抑えた堅実なプレーで10-6とゲームポイントを握り、最後サービスエースで11-6としてこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、ミスが続いて1-5と大量リードされます。そのまま追いつけない展開で5-9になりますが、そこから6連続得点して11-9で勝ち切ります。
ここで負けると今大会が暗転してしまう試合でした。勝てて良かったです。
フル動画。
ダイジェスト。
この試合のスーパープレー。
準々決勝
ルーマニアのセーチ選手との対戦でした。
対策を入念にして試合に臨んだに違いありません。
- 第1ゲーム、接戦で5-4まで競りますが、そこから徹底したミドル攻めで6連続得点して11-4で取ります。
- 第2ゲーム、ミドル攻めを基本としながらも攻め方が単調にならないようにして10-4と大量リードでゲームポイントを握ります。そこからセーチ選手に逆襲されますが、11-7でこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、接戦になり7-7まで競りますが、そこから流れを引き寄せ4連続得点して11-7で勝ち切ります。
多彩な攻め方でセーチ選手に的を絞らせませんでした。
フル動画。
ダイジェスト。
この試合のスーパープレー。
準決勝
今大会好調の平野美宇選手との対戦でした。できれば決勝で当たりたかったです。
第2ゲームを逆転で取れていなかったら、勝てなかったかも知れません。
- 第1ゲーム、今大会好調だったバックハンドにミスが目立ちリードされる展開になります。続いてフォアハンドにもミスが出て5-9と大量リードされ、挽回できないまま7-11で落とします。
- 第2ゲーム、バックハンドの感覚をつかみ切れないようでオーバーミスを連発し、3-8と大量リードされます。そこから4連続得点で7-8としますが、8-10とゲームポイントを握られます。このゲームも落とすと苦しくなるところ、台上技術で平野選手のミスを誘ってデュースに持ち込みます。クロスだとオーバーしまくるバックハンドをストレートに変えて11-10とし、最後は平野選手のサーブミスでこのゲームを取り返します。
- 第3ゲーム、バックハンドでコースを突くのをやめて平野選手のミドルを深く攻める戦術に変更します。点差が開かない接戦で9-8まで競りますが、ようやくバックハンドを振り抜くラリーに勝って10-8とし、最後は平野選手のミドル深くにバックハンドで送球して11-8でこのゲームも取ります。
- 第4ゲーム、バックハンドの調子が戻り、サーブからの組み立ても良くなってポイントを重ねます。7-1の場面ではあり得ないスーパープレー(下に動画へのリンクあり)が出るなど掴んだ流れを離さず、11-2で取ってゲームカウントを3-1にします。ゲームの流れというのは怖いですね。
- 第5ゲーム、平野選手も強気の攻撃を続けますが、バックハンドの強打で得点できるようになり互角の戦いとなります。7-7からはフォアサイドに逃げていくロングサービスを2本続けて出して9-7にします。最後10-8から再度フォアサイドに逃げていくロングサービスをコースを変えて出し、ミスを誘って11-8で勝ち切ります。
この試合には、2022全農CUP TOP32の準決勝で伊藤美誠選手に負けた経験(インタビュー動画)が活かされている気がしました。
フル動画。
ダイジェスト。
あり得ないスーパープレー。絶対観て。
この試合のスーパープレー。
決勝
ポーランドのユ・フ選手との対戦でした。2019年にヨーロッパ競技大会で優勝しているペンフォルダーです。過去の対戦成績は1勝1敗ですが、2020年以降の対戦はありません。
第1ゲーム、第2ゲームは苦戦しましたが、第3ゲーム以降は順応して勝ち切ることができました。良かったです。
- 第1ゲーム、慣れない球質に難儀しながらも8-8まで競ります。そこからフォアハンドの強打とループドライブを決めて11-8で取ります。
- 第2ゲーム、オーバーミスや甘くなった返球をユ・フ選手に強打されるなどして4-8と大量リードされます。8-9まで追い上げますが、癖のあるボールに対応できず8-11で落とします。
- 第3ゲーム、ユ・フ選手のボールに慣れてきたのか早田選手らしいプレーが増えます。6-5から5連続得点して11-5で取ります。
- 第4ゲーム、両ハンドでコースを狙えるようになり、サーブも効果的でリードする展開になります。11-6でこのゲームも取り、ゲームカウントを3-1とします。
- 第5ゲーム、ユ・フ選手のボールにすっかり慣れた感じで他の選手との対戦のような展開になります。11-7で勝ち切って目標通りに優勝を手にしました。
早田選手の対応力の高さが目立ちました。それができるだけの練習を積み重ねてきたということですね。
フル動画。
ダイジェスト。
この試合のスーパープレー。
表彰式。
ダブルス:優勝
今大会に出場している日本人女子は早田ひな選手と平野美宇選手だけです。そしてこの二人による「みうひなペア」は2018チェコオープン以来の再々結成です。
みうひなペア再々結成の経緯(背景)は不明ですが、もしかしたら日本卓球協会の強い意思が働いたのかも知れません。
出場メンバー的にも、順当に勝ち上がって優勝が見込めるドローでしたが、その通りに優勝したのは素晴らしいです。みうひなペアにとって大きな自信を得られた大会になりました。
Round 16(1回戦)
チャン・リリー/バラージョバの国際ペアとの対戦でした。直前のWTTコンテンダーマスカットで中国ペアに敗れて準優勝(ダイジェスト動画)している、侮れないペアです。
第3ゲームは接戦になりましたが、しっかり勝つことができました。
- 第1ゲーム、初戦は緊張するものですが、二人とも笑顔でコートを駆け回ります。危なげなく11-5で取ります。二人とも調子が良さそうです。
- 第2ゲームもみうひなペアのペースで進みます。ペアの動きも非常に良く、ミスの少ないプレーでこのゲームも11-5で取ります。
- 第3ゲーム、相手ペアの攻撃が決まる回数が増え、接戦になって9-9まで競ります。10-9とした後デュースになりますが、安定したプレーを続けて12-10で勝ち切ります。
みうひなペアが楽しそうにプレーしている姿、最高です。
フル動画。
ダイジェスト。
準々決勝
范姝涵/徐奕の中国ペアとの対戦でした。18歳と17歳の若手です。
しっかり勝つことができました。
- 第1ゲーム、プレーの精度が高く、試合の主導権を握って11-5で取ります。
- 第2ゲーム、サーブが効果的なうえ、二人とも両ハンドの調子が良く、このゲームもリードする展開で11-6で取ります。
- 第3ゲーム、安定したプレーでリードを広げ、危なげなく11-5で勝ち切ります。
実力差を見せつけた試合になりましたが、みうひなペアがこのコートを駆け回れるようになるまでの道程は、平坦ではありませんでした。
フル動画。
ダイジェスト。
この試合のスーパープレー。
準決勝
陳思羽/黄怡樺の台湾ペアとの対戦でした。
接戦になりましたが、勝ち切ることができて良かったです。
- 第1ゲーム、攻撃の組み立てが良く、安定したプレーでリードを広げます。台湾ペアに反撃させないまま11-5で取ります。
- 第2ゲーム、接戦になりラリーが増えて7-5まで競りますが、そこから抜け出して11-7でこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、台湾ペアの攻撃が決まる回数が増え、みうひなペアにややミスが多くなり、8-11で落とします。
- 第4ゲームも接戦で9-8まで競ります。ここであり得ないスーパーラリーで得点したみうひなペアが勢いそのまま11-8で勝ち切ります。
台湾ペアも強かったです。
フル動画。
ダイジェスト。
実況が「12年間卓球観てきて最高のダブルスラリーのひとつ、マジで」と言ったスーパーラリー。絶対観て。
この試合のスーパープレー。
決勝
申裕斌/崔孝珠の韓国ペアとの対戦でした。
しっかり勝ち切ることができました。
- 第1ゲーム、プレーの精度が高くサービス、台上技術も優位なみうひなペアが9-5と大量リードします。ここから9-8まで追い上げられますが、11-8で取ります。みうひなペア、好調です。
- 第2ゲーム、安定したプレーで得点を重ね、危なげなく11-5でこのゲームも取ります。ゲーム中に良くコミュニケーションが取れています。
- 第3ゲーム、二人とも好調でミスが少なく、精度の高いプレーでリードを広げます。10-6でチャンピオンシップポイントを握り、最後は息の合った連携を決めて11-6で勝ち切り、期待通りに優勝を手にしました。
本当に楽しそうにコート内を駆け回る二人が印象的でした。
フル動画。
ダイジェスト。
この試合のスーパープレー。
表彰式。
おまけ
早田ひな選手シングルス全試合ダイジェスト、40分。
早田ひなシングルスプレー集、5分。
みうひなペアプレー集。4分30秒。
まとめ
- シングルスで銭天一選手、平野美宇選手に勝って優勝でき、収穫の多い大会でした。国際大会でのシングルス優勝は、2021年アジア選手権大会で3冠を達成して以来11ヶ月ぶりです。
- 2022年に獲得したWRポイントが少なかったところ、一気に400ポイント増やすことができました。これは2023年の戦いを有利に進める上でとても重要です。
- ダブルスでは平野美宇選手と組んだみうひなペアで優勝し、このペアの可能性の高さを示すことができました。まだ孫穎莎/王曼昱の世界最強ペアに勝てるとは思えませんが、(パリオリンピックまでに)どこまで戦えるようになるのか、観てみたいですね。
左上腕三頭筋の炎症
早田ひな選手は今大会の途中から左腕にテーピングをしていました。この時は筋肉痛のようなものと認識していたようですが、約2週間後に開催された世界卓球2022選手権成都大会で、左上腕三頭筋の炎症であることが判明します。
今大会あたりから、左腕は限界を超えていたということですね。
大会終了後
引用:早田ひな選手のインスタグラムストーリーズ