制度

卓球の世界ランキング制度とは何か

ITTF(国際卓球連盟)は毎週火曜日に世界ランキング(WR)を更新しています。選手はWRポイント付与対象の国際大会に出場し、より高い成績とポイントを獲得して世界ランキングを上げることを競います。世界ランキングががると、より上位の大会に出場しやすくなり、シード的にも有利になります。実力が高い選手の場合、世界ランキングが(実力相応で)高いと競争上有利になるシステムになっています。

逆に世界ランキングが低いと、毎大会厳しい戦いを強いられる確率が高くなります。早田選手はパリオリンピック選考レース期間中、WRランク8位以内をほぼキープできました。

2024年はオリンピックのシード確保に向けて、さらにWRを上げていきたいものです。最低限の目標は第3シード、非中国人選手のトップです。できれば第2シードでパリオリンピックに臨みたいものです。

*アイキャッチ画像はこちらの動画からの引用です。

WRポイント(世界ランキングポイント)

ITTF/WTTは対象の国際大会について、付与されるWRポイントを規定しています。大会のランクによって大きく異なっていますが、ポイントが高い上位クラスの大会には世界のトップ選手が(つまり世界ランク上位の中国人選手が)数多く出場するため、優勝するのが難しくなります。

付与されるWRポイント一覧

出典:ITTF TABLE TENNIS WORLD RANKING REGULATION

世界ランク8位以内、日本人選手の2位以内を維持できると、競争上有利です。

  • 運が良ければスターコンテンダー、コンテンダーに出場し、中国のトップ選手がいない場合は十分優勝を狙えます。
  • チャンピオンズには自動的に出場資格が付与されるので、準々決勝で中国のトップ選手と当たる可能性が高いものの、ベスト4まで行ければ350ポイント獲得できます。(中国のトップ選手とガチで試合できるのも大きなメリットです。)
  • 招待制のファイナルズに出場できます。シード的には中国のトップ選手と当たるのは準々決勝からで、ベスト4まで行ければ525ポイント獲得できます。
  • 最上位大会のグランドスマッシュには自動的に出場資格が付与されます。シード的には中国のトップ選手と当たるのは準々決勝からで、ベスト4まで行ければ700ポイント獲得できます。
  • 9位以降になると、特に中国のトップ選手が必ず参加する上位大会で、シード的に不利になります。

ぶっちゃけ一番ポイントを稼ぎやすいのは、中国のトップ選手が出場していないスターコンテンダー、コンテンダーで優勝することです。世界ランク20位以内の選手の出場制限、各協会ごとの出場人数制限があるため、(2022年までは)中国のトップ選手の次で、日本人最上位の2名の位置にいると、スターコンテンダー、コンテンダーに出場しやすかったです。

ところが2023年から世界ランク20位以内の選手の出場制限(PDR)が変更され、誰を選ぶかの裁量権がホスト国に与えられました。そのためエントリーを希望しても通るかどうかはホスト国次第という、非常に不透明な運営になっています。

このPDRには明らかに問題があり、2024年は7月までPDRが一時停止されます。NER(同一協会からの出場選手数制限)に引っかからなければ、世界ランク20位以内でも希望すれば必ずエントリーできます。そのため、パリオリンピックのシードが確定すると思われる7月16日に向けて、WTTシリーズは各大会びっしり選手が集まることが予想されます。

計算方法

  • ポイントの有効期限は1年で、それを過ぎると失効します。
  • 失効していないポイントのうち高いものから最大8つの合算が、現在の保有ポイントとなります。
  • ただし、アジア選手権など大陸別、地域別の大会のポイントは最も高い大会もの1つだけが合算対象になります。

次は早田ひな選手のポイント明細はこちらにあります。何よりも大切なのは、絶対に故障しないことです。

10位から20位ぐらいが一番つらい

コンテンダーとスターコンテンダーには、PDR(Play Down Restriction)と呼ばれる、WR20位以内の選手の出場制限があります。コンテンダーとスターコンテンダーはWR21位以下の選手を優先出場させる大会なのですが、WR20位以内の選手もコンテンダーは3名まで、スターコンテンダーは6名まで出場可能です。

2022年まではWR上位から3名/6名だったので、中国のトップ選手が出場しなかったコンテンダー、スターコンテンダーではランキング上位の選手が優勝しやすかった(ポイントを稼ぎやすかった)です。このこと自体は2023年以降も変わらないのですが、WR20位以内の選手のエントリーはホスト国に裁量権があるため、ランキング上位でエントリーしても拒否される可能性があります。

実際、2023年終盤のコンテンダー、スターコンテンダー大会において、早田ひな選手はPDRをかいくぐって連続出場したのに対し、伊藤美誠選手と平野美宇選手は出場しませんでした。選手が出場を希望したかどうかは公表されていませんが、状況的にPDRによって出場できなかったように思えます。

PDRの問題がわかる表

早田ひな選手がPDRをかいくぐって連続出場できた理由は想像するしかありませんが、明らかに不公平な制度であることは間違いありません。

2024年1月から7月までは特別措置によりPDRが一時停止されています。

勝ち続けるしかない

誰にとっても公平な制度は設計不可能です。決められた制度の中で、最大限チャンスを活かして大会に出場し、勝つ以外に世界ランクを上げる手段はありません。そしてポイントは1年で失効してしまうので、休んでいたらいずれ世界ランクが下がってしまい、より厳しい戦いを強いられます。大会に出続けて、勝ち続けるしかないのです。

そのためには故障を避けつつ強化を続けるという、難しいコンディショニングが求められます。

不透明で鬼のようなペナルティー:ZPP

WTTシリーズの上位3大会である、グランドスマッシュ、ファイナルズ、チャンピオンズは完全招待制で、怪我または病気でない限り出場が強制されます。そして個人的な理由で出場を辞退した場合は、ZPPというペナルティーが課されます。ZPPはZero Point Penaltyの略だと思われます。

ZPPは対象大会のWRポイントを0にし、それを1年間維持して加算対象にする、つまり最大8大会加算のところが最大7大会に削減されるという鬼のようなペナルティーです。

次は王楚欽選手のWRポイントの明細です。上から8大会目の行がピンクになっていて、PositionがZPP、Pointsが0です。これにより、王楚欽選手は2025年4月1日まで、最大7大会までのWRポイントしか加算できなくなりました。

王楚欽選手のWRポイントの明細

王楚欽選手はWTTチャンピオンズ仁川2024を、その後開催されるワールドカップマカオ2024に備えるために、怪我でも病気でもないのにエントリーしなかったようで、見事にZPPを喰らいました。そうなることは十分予想できたので、王楚欽選手(と中国卓球協会)の行動は理解しがたいものでした。

さらに驚いたことに、コンテンダーシリーズへのエントリーを個人的な理由でキャンセルした林昀儒選手も、ZPPを喰らってしまいました。

林昀儒選手のWRポイントの明細

エントリーをキャンセルした2大会がZPPになっています。1年間、6大会までしか加算されないと競争上圧倒的に不利になります。

次はZPPを喰らう前のものです。

林昀儒選手のWRポイントの明細、ZPPを喰らう前

2大会でZPPを喰らったため、140+130=270ポイントを失ってしまいました。これはパリオリンピックの団体戦のシード争いにも大きな影響を与えました。

陳思羽選手の場合

陳思羽選手はWTTコンテンダーザグレブ2024とWTTスターコンテンダーリュブリャナ2024を、医師の診断書を提出して欠場したのにZPPを喰らってしまい、異議申し立て中(2024年6月23日現在)らしいです。これ、怖い話ですよね。

陳思羽選手のWRポイントの明細

怪我や病気によって大会のエントリーをキャンセルすることは普通にあるのに、医師の診断書を提出したのにZPPを喰らってしまったのではITTF/WTTへの信頼が揺らいでしまいます。

ZPPを喰らう条件

ZPPについて書かれた文書が見つからないため想像になりますが、ZPPを喰らう条件はこうではないかと思われます。

  • WTTシリーズ上位3大会を、病気や怪我(診断書の提出必須)、妊娠出産、引退以外の理由でキャンセルした場合。
  • コンテンダー、スターコンテンダーを12ヶ月以内に3回以上、エントリー後に病気や怪我(診断書の提出必須)、妊娠出産、引退以外の理由でキャンセルした場合。

でもこれで林昀儒選手、陳思羽選手の例を説明できるかどうかは不明です。

早田ひな選手はWTTコンテンダーチュニス2024、WTTスターコンテンダーバンコク2024のシングルスをエントリー後にキャンセルしています。混合ダブルスには出場しましたが、おそらく12ヶ月以内に同様の事象を起こすとZPPを喰らうと思われます。注意が必要です。

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