制度

最悪だったワールドカップマカオ2024の予選ラウンド通過ルール

ITTFが主催していたワールドカップ(個人戦)は、WTTファイナルズにとって代わられたはずだったのですが、驚いたことに新フォーマットで復活しました。予選の選手数を48に増やし、3人ずつの16グループが4ゲームマッチのリーグ戦を行い、1位の選手16名が決勝トーナメントに進むというものです。

この予選ラウンドの新ルールは複雑で問題が多いものでした。大会を運営したITTF内部でルールを正しく共有できておらず、批判を浴びました。何より、選手への心理的負担が大きいのが問題だと思います。

この記事では問題となった予選ラウンド通過ルールについて、分かりやすく解説します。

*アイキャッチ画像はITTF YouTubeチャンネルからの引用です。

予選ラウンド通過ルール

一般公開されていた情報

ITTF公式サイトで一般公開されていた試合形式に関する資料からは、次のように読み取れました。

  • 3名ずつの16グループに分かれてグループリーグ形式の予選ラウンドを行います。各グループは4ゲームずつ2試合戦って、最高勝率の選手が決勝トーナメントに進出します。
  • 予選ラウンドでは必ず4ゲーム戦い、その結果は4-0、3-1、2-2、1-3、0-4のどれかになります。1試合目が2-2だった場合、2試合目を3-1で勝てたとしても、もうひとつの試合の試合結果が4-0だと予選敗退となります。
  • 予選ラウンドの順位決めには、勝利ゲーム数が使われ、これが同数だった場合、総得点と総失点の比が使われます。

ITTF公式サイトにおける、予選ラウンドの順位表には、総得点、総失点、総得点÷総失点(比率)が表示されており、勝利ゲーム数が同数の場合はこの比率が用いられるものと思われました。

正しい情報

実際には次のルールが適用されました。

  • 4-0同士または3-1同士の選手が対戦して2-2だった場合、勝利ゲーム数は6または5の同数になります。この場合は直接対決である2-2になった試合の、総得点の多い選手が1位になります。
  • 3選手の対戦結果が全て2-2だった場合、その3試合の総得点÷総失点(比率)で順位付けを行います。

この複雑なルールについて実例をあげて説明している張り紙の写真をXで見ました。張本智和選手、グロート選手が試合前にこのルールを正しく理解していたことからも、おそらく選手・コーチにはルールをしっかり説明されていたと思われます。

ところがITTFの運営側では正しく理解されておらず、それが原因で大きな問題が発生しました。

張本智和 vs グロート戦

張本智和選手とグロート選手は共にゲームカウント3-1で最終戦に臨みました。グロート選手に2ゲーム先行されてしまい、1位通過するには残り2ゲームを取り返した上で、この試合の総得点数で上回らないといけません。2ゲーム終了した時点で総得点数で9負けていました。

張本智和 vs グロート戦、2ゲーム終了時点のスコア表

そのため張本智和選手は残り2ゲームで失って良いポイントは合計12まででした。2ゲーム取り返さないと負けるというだけでも大変なのに、さらに失点していいのは2ゲームの合計で12までなんて、絶望的に厳しいです。

でも張本智和選手はその重圧に耐えて、11失点で切り抜けました。

張本智和 vs グロート戦、4ゲーム終了時点のスコア表

第4ゲームを11-5で取り切った張本智和選手は床にしゃがみ込みます。

ところが実況解説者はグロート選手の失点が6ポイント少ない、前の2試合の結果も含まれると理解していました。そのため、張本智和選手は、理論的には残り2ゲームをともに11-3で勝たなければならず、ほぼ不可能な状況だとしていました。そして第3ゲームが11-6だったので、第4ゲームで2点失った時点でグロート選手の1位通過が決まったとしていたのです。

僕はこの試合をリアルタイムで視聴していましたが、張本智和選手はその後も1点取るたびに雄叫びを上げていたので、ルールを誤解しているのだと思いました。

フル動画、第3ゲームから。

さらにITTF公式の順位表でも、グロート選手が1位通過になっていました。張本智和選手がベンチでうなだれている様子から、ルールを誤解していたのは間違いなさそうでした。

張本智和選手の1位通過に訂正

張本智和 vs グロート戦が終了してから数十分後に出た、テレ東卓球情報のこのポストで1位通過したのは張本智和選手だったと伝えられました。

そしてITTF公式サイトの順位表示も訂正されました。

直接対決の総得点の多い選手が1位通過

実況解説者もITTFの公式サイト運営者も間違っていましたが、ともにゲームカウント3-1で最終戦を迎えた張本智和 vs グロート戦が2-2だった場合、その直接対決の総得点の多い選手が1位通過します。張本智和選手はそのルールを正しく理解して試合に臨んでいました。

ホッと胸を撫で下ろした張本は、自身のインスタグラムのストーリーでこの時の心境を告白。「試合前から直接対決の結果だと知ってたので4ゲーム目は11-6で勝たなきゃいけない!って思ったのは初めてでした。10-4であんなに緊張したのは初めてです。明日からやっと通常ルール、頑張ります!」と綴っており、やはり試合終了直後から勝利を確信していたようだった。

引用:「精神的健康を台無しにしてくれて感謝」張本智和の対戦相手が主催側の大失態に恨み節! 地獄→天国の日本エースは「10-4であんなに緊張したのは初めて」と本音【卓球W杯】

ITTFの訂正と謝罪

グロート選手もルールを正しく理解して試合に臨んでおり、試合終了時には自分の負けを認識していました。

一方、憤懣やるかたないのは第1ステージ敗退となったグロートだ。もちろん、ルールを把握していた彼も、最初は敗退を覚悟していたようだが、ITTF公式がグロートの勝ち抜けを示し、さらには次戦に向けたインタビューまで受けたため、完全に第2ステージ進出を信じてしまったようだ。ぬか喜びさせられた心境をグロートはインスタグラムで次のように綴った。

「最初にトーナメントから出たと思った。それから公式ITTFの結果をチェックしたところ、私がグループに勝ったことを示した。そして、ITTFメディアから、グループで勝つ方法と残りのトーナメントへの期待を聞かれる。だから、グループに勝ったというのは本当だろうと思った。それから1時30分後にITTFが公式結果を変え、私はグループの2番目...... 私のメンタルヘルスを台無しにしてくれてありがとう、ITTF」

引用:「精神的健康を台無しにしてくれて感謝」張本智和の対戦相手が主催側の大失態に恨み節! 地獄→天国の日本エースは「10-4であんなに緊張したのは初めて」と本音【卓球W杯】

ひどい話です。

女子第7グループ

女子第7グループには、WRが高い順に、伊藤美誠選手、スターシニー選手、エイミー・ワン選手が入りました。ともにゲームカウント2-2で迎えた最終戦で、伊藤美誠選手が3-1以上なら1位通過でしたが、ギリギリのところでエイミー・ワン選手に2-2にされてしまいました。

3選手の対戦結果が全て2-2だった場合、その3試合の総得点÷総失点(比率)で順位付けを行います。結果、スターシニー選手が1位通過、伊藤美誠選手は予選ラウンド敗退となりました。

女子第7グループの最終結果表

ヨルギッチ vs 李尚洙戦

両者共に4-0で臨んだ最終戦、ヨルギッチ選手が2-1とリードして最終第4ゲームを迎えました。3-1ならヨルギッチ選手の1位通過が決まりますが、2-2だとこの試合の総得点が多い方が1位通過します。張本智和 vs グロート戦と同じ状況でした。結果、2-2になりましたが2ポイント差でヨルギッチ選手が1位通過を決めました。

出典:【男子グループ12】ヨルギッチ vs イ・サンス|ITTF男子ワールドカップマカオ2024|ステージ1

卓球はポイントを気にしながら戦う競技ではないはずです。選手の身にもなって欲しいです。

ワールドカップで消化ゲーム

予選ラウンドは必ず4ゲーム戦うルールですが、最終戦は2ゲームまたは3ゲーム終了時点で1位通過者が決まり、残り2または1ゲームが「消化ゲーム」になることも実際にありました。選手が終わりにしたいと言っても主審は認めませんでした。

選手の気持ちへの配慮に欠けたルールだと思います。

オマール・アサール vs モーレゴード戦

2-1になった時点でオマール・アサール選手の1位通過が確定しました。モーレゴード選手は戦意喪失してやる気ない星人になり、主審に何度も「Mind your behavior(態度に気をつけなさい)」と注意されます。まあモーレゴード選手らしいですが、このケースでは同情しちゃいますね。

第4ゲームから。

張禹珍 vs ゴジ戦

2-0になった時点で張禹珍選手の1位通過が確定しました。ゴジ選手は主審に試合を辞めたいと申し出たものの断られ、勝敗に関係ない残り2ゲームをプレーすることになります。第3ゲームはさながらエキシビションマッチ、第4ゲームはやる気ない星人の戦いになりました。

第3ゲームから。

張本智和選手がインタビューで

張本智和選手は決勝トーナメントのR16終了後のインタビューで、予選ラウンドの試合形式との違いについて答えています。

まとめ

予選ラウンド通過ルールは複雑でした。運営上の問題は無視しても、選手全員に公平に適用されるなら良いと言える内容ではありませんでした。卓球は、1ゲーム内であと何点取られたらどうだとかいうことを気にしながら戦う競技ではないはずです。スコアは別にして、そのゲームを取り切ることに集中したいはずです。

各国の協会、選手はしっかり声を上げて、今大会で採用されたひどい試合形式の廃止を求めるべきです。ひどすぎます。

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