WTTコンテンダーは、本来は、WR21位以降の選手向けの大会で、WR20位以内の選手には厳しい出場制限がかかります。ところがWR20位以内の選手もWTTコンテンダーに可能な限り出場して、WRポイントを稼ぐ必要があります。そして大会によって優勝の難易度が大きく変わるのも事実です。
早田ひな選手は厳しい出場制限をかいくぐって、中国人選手がひとりもいない今大会にエントリーし、R16敗退の危機を乗り越えてから復調し優勝しました。
*アイキャッチ画像はテレビ東京卓球情報のXポストからの引用です。
WTTコンテンダー
- シニア向けWTTシリーズの最下位大会です。(WTTフィーダーシリーズはWTTシリーズではありません。)
- 年間最大14大会開催可能です。
- 本戦4日、予選2~3日の日程で選手によっては1日に4試合に出場します。
- シングルス、ダブルス、混合ダブルスの3種目を実施。
- シングルスの本戦は32名、うち8名は予選を通過した選手。
- 予選人数は48、64、96名から開催国が選択します。
- ダブルス、混合ダブルス本戦16ペア、うち4ペアは予選を通過したペア。
- シングルスは各協会から4名までしか出場できません。(世界ランク20位以内の選手を除きます。)また世界ランク21位以降の上位者から優先出場となっています。
- 世界ランク20位以内の選手は、全体で3名しか出場できません。ホスト国はその3名を選ぶ裁量権を持ちます。
- ワイルドカード枠3名、WTT推薦枠1名は上記制限の対象外。
- シングルスのシード数は基本16。
- 前6週以内にグランドスマッシュまたはチャンピオンズに出場した選手は優先度が下がります。
- シングルスの決勝のみ7ゲームマッチ、他はすべて5ゲームマッチ。(2023年からシングルスの準決勝を5ゲームマッチに変更。)
- 優勝選手には400ポイントが付与されます。
WTTコンテンダーマスカット2023
- 期間:10月8日から14日
- 場所:オマーンのマスカット(日本との時差5時間、現地10:00が日本の15:00)
- 出場種目:シングルス、混合ダブルス
- 参照:WTT公式サイト、日本卓球協会公式サイト
- パリ五輪選考ポイント付与対象ではありません。また中国人選手はひとりもエントリーしていないので、打倒中国ポイントの対象でもありません。
ネット中継
- WTTがYoutubeチャンネルでT1からT4をリアルタイム配信しました。
- テレビ東京卓球チャンネルは本戦2日目(シングルスのR16以降)からT1をリアルタイム配信しました。
- テレビ東京卓球チャンネルはアーカイブの公開が迅速ですが、WTT公式チャンネルはしばらく待たされることがあります。
シングルス出場選手
本戦から出場する24名の顔ぶれです。早田ひな選手はWR9位で第1シードでした。
日本人女子で出場したのは早田ひな選手、張本美和選手、長﨑美柚選手でした。
今大会に中国人選手は(国内大会があるため)ひとりも出場していません。エントリーから考えて、早田ひな選手が優勝を狙える大会でした。
エントリーについての補足
このエントリーを見て、中国人選手が出場しない大会だから他の日本人女子ももっとエントリーしたらいいのに、と思うことでしょう。対象となる選手が実際にどう考えてどう行動したかは分かりませんが、おそらく希望通りにエントリーできなかった選手がいるはずです。
- 伊藤美誠選手、早田ひな選手、平野美宇選手、張本美和選手はWR20位以内だったので、PDRと呼ばれる制限により、エントリーできるかどうかはホスト国の裁量次第でした。
- PDRで選ばれる選手は3名で、早田ひな選手はホスト国の裁量で選ばれました。
- 張本美和選手は3名しかないWC(ワイルドカード、ホスト国に選択権あり)枠で選ばれました。
- おそらく伊藤美誠選手と平野美宇選手はエントリー希望を出したものの、認められなかったのだと思われます。
- 長﨑美柚選手はWR21位以降だったので、普通にエントリーできました。
- 木原美悠選手はエントリーしていませんが、エントリー希望を出していれば問題なく認められたはずです。
シングルス:優勝
順当なら準々決勝で田志希選手と、準決勝で長﨑美柚選手かユアン・ジアナン選手と、決勝で張本美和選手かディアス選手と当たるドローでした。
本戦2日目までは明らかに不調でしたが、R16敗退の危機を乗り越えてから復調し、田志希選手、長﨑美柚選手、ディアス選手を倒して優勝しました。
なおこの大会のシングルスでは、渡辺監督にベンチコーチを依頼したようです。
Round 32(1回戦)
スロバキアのククルコバー選手との対戦でした。初対戦です。
第2ゲームの戦い方を続けていたら負けたかも知れません。勝てて良かったです。
- 第1ゲーム、早田選手にややミスが多く5-5まで競りますが、そこから修正して6連続得点し、11-5でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、両ハンドのオーバーミスが多く、またフォアサイドに振られたボールをネットミスすることが多く、満足にリードできない展開が続きます。9-9からフォアハンドのオーバーミスで9-10とされますが、粘ってデュースに持ち込みます。らしくないミスが目立つ良くない展開でしたが何とか16-14でこのゲームも取ります。修正しないと負け試合になってしまうと思いました。
- 第3ゲーム、早田選手はラリー戦を避けた短い展開を選択します。サーブが効いて組み立てが良くなり、ククルコバー選手のミスもあって8連続得点し、11-2で勝ち切り、鬼門とも言える初戦をものにしました。
早田選手がR32あたりでポロッと負ける時は、両ハンドのオーバーミスを連発して自滅する印象です。第2ゲームではその空気が漂っていました。第3ゲームは問題を修正したと言うよりは、得点の手段を変更したように見えました。次の試合までに修正したいですね。
フル動画。
ハイライト。
シングルスの初戦の結果を伝える記事。
Round 16(2回戦)
韓国の梁夏銀(ヤン・ハウン)選手との対戦でした。WTTスターコンテンダーリュブリャナ2023のR32でも対戦しています。
奇跡的に勝てましたが、ほんの僅かツキに恵まれていなかったら負けていました。
- 第1ゲーム、バックハンドでのレシーブをことごとくミス、距離感が合っていないのかフォアハンドの空振りを連発、ラリー戦でもらしくないミスをするなど散々な内容で、5-11であっさり落としてしまいます。絶不調です。
- 第2ゲーム、明らかに不調ながらも諦めないで得点を重ねます。9-7から9-9に追い付かれた時は心が折れそうだったと思いますが、強気の攻めの姿勢を崩さず11-9でこのゲームを取り返します。
- 第3ゲーム、不調な中でも出せる100%の力を出し、持っている技術を総動員して戦います。梁夏銀選手は状態が良く苦戦を強いられますが、何とか9-7とします。まだボールとの距離感が掴めておらず9-9と追い付かれますが、最後サーブ2本の場面で早田選手らしい動きで得点し、11-9でこのゲームも取ります。
- 第4ゲーム、両ハンドにミスが多くリードを許す展開が続きます。梁夏銀選手は状態が良くラリー戦になると分が悪いです。9-10の場面を耐えてデュースに持ち込みますが、ラリー戦を落とす形で11-13でこのゲームを失います。流れ的には非常にまずいです。
- 最終第5ゲーム、入り方が悪く2-6と大量リードを許します。半年前の早田選手なら負け確定でしたが、諦めないで6-6と追い付きます。苦しい展開は続き8-10と先にマッチポイントを握られますが、ミスの多かったバックハンドで攻めて9-10、テーブルエンドのエッジで10-10とします。このエッジがなかったら負けでした。最後、分の悪い梁夏銀選手のサーブからの展開を台上技術とバックハンドドライブで決めて吠え、ここで決めないと負けそうという心臓に悪い場面で打ち合いを制して12-10で逃げ切りました。
状態はアジア競技大会の半分以下ではないでしょうか。今日は精神力で勝利をもぎ取った印象ですが、修正できないままだと準々決勝は勝てません。
フル動画。
ハイライト。
準々決勝
韓国の田志希(チョン・ジヒ)選手との対戦でした。WTTコンテンダーザグレブ2023の準々決勝でも対戦しています。
アジア競技大会の団体戦準決勝で平野美宇選手に勝利するなど強敵です。
昨日とは別人のようなプレー内容でした。状態を戻すのが間に合ってよかったです。
- 第1ゲーム、田志希選手のボールとの距離感をつかめずリードを許す展開になりますが、すぐに修正して7-5と逆転します。昨日はダメダメだったチキータレシーブでエースを取るなど別人のようです。最後は昨日失点を続けたフォアサイドに振られたボールを長いリーチで返してからバックハンドのブロックを決めて11-8でこのゲームを取ります。今日はこの調子のまま行きたいです。
- 第2ゲーム、昨日より明らかに動きが良い早田選手がリードする展開になります。レシーブをバックハンドで攻めてからのラリー戦に勝つなど、早田選手らしいプレーが戻り、9-4とリードします。そこから田志希選手に攻め込まれて2点差になりますが、巧いショートサーブでエースしてゲームポイントを握り、最後は田志希選手の回り込みフォアハンドをバックハンドで打ち返し、11-9でこのゲームも取ります。好調時の早田選手が帰ってきました。
- 第3ゲーム、流れをつかめず1-5とリードを許しますが、安定したプレーで追い上げます。バック対バックのラリー戦でも打ち負けず、チキータレシーブも決まります。フォアサイドに振られたボールへの反応にも、復調ぶりが伺えます。9-9の勝負どころ、サーブ3球目をループドライブしてミスを誘い笑顔を見せ、最後に昨日ミスしまくったバックハンドをミドル深くに決めて11-9で勝ち切り、準決勝進出を決めました。
昨日の苦しい試合を最後まで諦めず、耐えに耐えて勝利をもぎ取ったからこそ手にできた今日の勝利でした。
また、この試合もベンチコーチは渡辺監督でしたが、期待通り、明らかに石田コーチの声が中継映像に入っていました。最高です。
フル動画。
ハイライト。
みんスポからの公式動画。
試合結果を伝える記事。
日本人女子は3人とも準決勝に進出。
この試合のスーパープレー。
準決勝
長﨑美柚選手との対戦でした。世界卓球2023ダーバン大会のR32でも対戦しています。
今大会好調の長﨑選手との接戦を制して勝つことができました。長﨑選手、強かったです。
- 第1ゲーム、接戦で点差が開かない展開が続きます。早田選手はレシーブをバックハンド主体で攻めますが、長﨑選手もカウンターで対応します。両者譲らず9-9になった勝負どころで長﨑選手に打ち負け、9-11でこのゲームを落としてしまいます。
- 第2ゲーム、ラリー戦を有利に進め、田志希戦よりさらに動きが良くなった早田選手がリードする展開になります。10-6でゲームポイントを握り、長﨑選手の追い上げを振り切って11-7でこのゲームを取り返します。早田選手のプレーの精度は、昨日とは別人のような高さです。
- 第3ゲーム、技術とコースの選択が良く、凡ミスしない早田選手が流れをつかんでリードを広げ、11-3でこのゲームも取って、ゲームカウントを2-1とします。
- 第4ゲーム、長﨑選手が反撃に転じ、実力拮抗で接戦になります。10-8でマッチポイントを握りますが、強気の姿勢を崩さない長﨑選手がラリー戦を4本制し、10-12で落としてしまいます。長﨑選手のメンタル、強靭です。
- 最終第5ゲーム、さらに動きの良くなった早田選手が、9-0とリードする一方的な展開になります。ゲームによって流れが大きく変わる卓球は怖い競技です。長﨑選手に十分な反撃をさせないまま、11-2で勝ち切り、決勝進出を決めました。
早田選手はこの試合で、両ハンドの「感覚」を取り戻せたと確信したはずです。間に合って良かったです。
フル動画。
ハイライト。
試合結果を伝える記事。
この試合のスーパープレー。
決勝
プエルトリコのアドリアーナ・ディアス選手との対戦でした。国際大会では2019年に一度対戦したことがあります。
今大会第2シードで、準決勝で張本美和選手を敗っています。
早田選手はアジア競技大会決勝時の状態を取り戻しており、完勝でした。
- 第1ゲーム、ディアス選手のボールに合わせられず1-5とリードされますが、すぐに修正して5-5で追い付きます。早田選手はプレーの精度が高く、サーブも効いてリードを広げ、11-7でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、ディアス選手が早田選手のサーブに苦しめられたのに対し、早田選手はレシーブでもディアス選手を翻弄します。ディアス選手に良さを出させない形で11-5でこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、プレーの精度が高く得点を重ねる早田選手に対し、ディアス選手は無理に決めようとしてミスする悪循環に入ります。9-1と大量リードしてからディアス選手が追い上げますが、早田選手は安定したプレーで退け、11-5でこのゲームも取ってゲームカウントを3-0とします。
- 第4ゲーム、ラリー戦が増えますが早田選手はミスが少なくリードする展開になります。8-6となった後サーブ3球目のフォアハンドの強打を2本決めてマッチポイントを握り、最後は攻めたレシーブからのラリーを制して11-6で勝ち切り、ストレート勝利で優勝を手にしました。
仕上がっている時の早田選手の強さが出た試合でした。試合を有利に運べたこともあるからでしょうが、早田選手は終始笑顔で、試合が楽しくてしょうがないと言った様子でした。
フル動画。
ハイライト。
勝利後に渡辺監督と笑顔で握手する早田選手。(テレビ東京卓球NEWSの記事からの引用。)
表彰式
みんスポからの公式動画。
今季2度目のシングルス優勝を伝える記事。
この試合のスーパープレー。
混合ダブルス:ベスト8
今大会は出場メンバー的に、はりひなペアにとって優勝が求められました。次はエントリーした16ペアの顔ぶれです。
なお、林鐘勳/申裕斌の韓国最強ペアもエントリーしていましたが、申裕斌選手がWTTスターコンテンダー蘭州で故障してしまい棄権になりました。松島輝空/張本美和ペアはその代わりとして急遽エントリーが決まりました。
はりひなペアは順当なら準々決勝で松島/張本ペアと、決勝で林昀儒/陳思羽ペアと当たるドローでした。
優勝が期待されたはりひなペアでしたが、本来の調子からは程遠く、準々決勝で松島/張本ペアに力なく負けてしまいベスト8でした。その松島/張本ペアは準優勝でした。
Round 16(1回戦)
プエルトリコのゴンザレス/ディアスペアとの対戦でした。
快勝でした。
はりひなペアはほぼ凡ミスがありませんでした。張本選手のレシーブがすこぶる良かったです。
フル動画。
ハイライト。
準々決勝
松島/張本ペアとの対戦でした。林鐘勳/申裕斌ペアが大会直前に棄権したのに伴い、急遽エントリーされました。
今日のはりひなペアの状態では勝てなくて当然でした。
- 第1ゲーム、はりひなペアにとって有利なローテーション、流れをつかんでリードする展開になりますが、そらみわペアに追い上げられます。はりひなペアのプレーが安定しません。それでも11-8でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、調子が上がらない中でもなんとかリードを保ちますが、8-8で追い付かれ、10-12であっさり落としてしまいます。好調な時のはりひなペアに遠く及ばない動きです。
- 第3ゲーム、ミスが多い上にゲームの組み立てが悪く、そらみわペアにリードを許してしまいます。全く良いところなく4-11でこのゲームも落としてしまいます。この時点で負けを覚悟しました。
- 第4ゲーム、第3ゲームの悪い流れのまま、半ば自滅する形で失点を重ね、6-11で落として敗戦となりました。
この試合の前に行われたシングルスで、早田ひな選手はミスを連発していましたし、張本智和選手は好調だったもののメディカルタイムアウト(脚の問題?)を取っており、ペアとして精彩を欠いたのは納得です。だとしても、今後に大きな課題を残したことは事実です。
フル動画。
ハイライト。
みんスポからの公式動画。
試合結果を伝える記事。
卓球ジャパン!そらみわペアスペシャル。
まとめ
シングルス優勝
- WTTシリーズのシングルス優勝は、WTTコンテンダーリオデジャネイロ2023に続いて今季2度目です。
- エントリー的に優勝を狙える大会が少ない中、そのチャンスをものにできたことの意味は大きいです。特にR16までは不調で、梁夏銀選手に負ける寸前だったのを耐えて勝ちをもぎ取り、翌日から復調して決勝戦では本来の状態まで戻して戦えたことは、大きな収穫になったはずです。
- 最近ポイント失効により世界ランキングが下落傾向でしたが、この優勝でWRポイントを400獲得したことで、8位から6位に上昇します。
混合ダブルスベスト8
- パリオリンピックを見据えるとペアの世界ランキング2位を死守したいのですが、韓国最強ペアに猛追されているのが現状です。今大会は申裕斌選手が怪我で棄権したことから、優勝してリードを広げたいところでしたが、はりひなペアが不調でベスト8に終わりました。
- 最近、二人共好調なペアを見れていません。好不調の波は誰にでもあるので、大きなポイントのかかった大会に照準を合わせて練習・調整して臨んで欲しいものです。
おまけ
シングルス表彰式での自撮り。国際卓球連盟のXポストからの引用。
次は日本卓球協会のXポストからの引用。
サービスショット。WTT公式アカウントのXポストからの引用。苦しい大会だったけど優勝できて良かった。
石田コーチのインスタグラムから。
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大会終了後
今大会を振り返る記事。