WTTコンテンダーは年間最大14回開催可能とされていますが、2023年でも8大会しか予定されていません。世界ランキングを上げたいWR40位程度以内の選手は、事実上コンテンダーに出場してポイントを稼ぐ必要があります。
そしてコンテンダーも大会によってポイントを稼ぎやすい時とそうでない時があります。エントリーとドローの運に恵まれた時は、そのチャンスを活かしてしっかりポイントを稼ぎたいものです。
早田ひな選手はシングルスのみにエントリーし、期待通り優勝しました。
*アイキャッチ画像はテレビ東京卓球情報のツイートからの引用です。
WTTコンテンダー
- シニア向けWTTシリーズの最下位大会です。(WTTフィーダーシリーズはWTTシリーズではありません。)
- 年間最大14大会開催可能です。
- 本戦4日、予選2~3日の日程で選手によっては1日に4試合に出場します。
- シングルス、ダブルス、混合ダブルスの3種目を実施。
- シングルスの本戦は32名、うち8名は予選を通過した選手。
- 予選人数は48、64、96名から開催国が選択します。
- ダブルス、混合ダブルス本戦16ペア、うち4ペアは予選を通過したペア。
- シングルスは各協会から4名までしか出場できません。(世界ランク20位以内の選手を除きます。)また世界ランク21位以降の上位者から優先出場となっています。
- 世界ランク20位以内の選手は、全体で3名しか出場できません。ホスト国はその3名を選ぶ裁量権を持ちます。
- ワイルドカード枠3名、WTT推薦枠1名は上記制限の対象外。
- 前6週以内にグランドスマッシュまたはチャンピオンズに出場した選手は優先度が下がります。
- シングルスの決勝のみ7ゲームマッチ、他はすべて5ゲームマッチ。(2023年からシングルスの準決勝を5ゲームマッチに変更。)
- 優勝選手には400ポイントが付与されます。
WTTコンテンダーリオデジャネイロ2023
- 期間:8月7日から13日
- 場所:ブラジルのリオデジャネイロ(日本との時差12時間、現地10:00が日本の22:00)
- 出場種目:シングルス
- 参照:WTT公式サイト、日本卓球協会の公式サイト
- パリ五輪選考ポイント付与対象ではありません。また打倒中国ポイントの獲得対象となる中国人選手はエントリーしていません。
ネット中継
- WTTがYoutubeチャンネルでT1からT4をリアルタイム配信しました。
- テレビ東京卓球チャンネルは本戦3日目(シングルスの準々決勝以降)からT1をリアルタイム配信しました。
- テレビ東京卓球チャンネルはアーカイブの公開が迅速ですが、WTT公式チャンネルはしばらく待たされることがあります。
シングルス出場選手
本戦から出場する24名の顔ぶれです。早田ひな選手はWTT推薦枠でエントリーし、WR8位で第1シードでした。
日本人女子で出場したのは早田ひな選手だけでした。
今大会に中国人選手は出場していません。エントリーから考えて、早田ひな選手には優勝が求められる大会でした。
日本人女子が早田ひな選手だけだった理由
これは僕の想像です。
今大会にエントリーした日本人女子選手は、早田ひな選手だけでした。今大会の前週にペルーのリマで開催されたWTTコンテンダーリマには、次の選手がエントリーしました。
- 伊藤美誠選手
- 張本美和選手(WC枠)
- 平野美宇選手(WC枠)
- 長﨑美柚選手
- 木原美悠選手
張本美和選手と平野美宇選手はWRが20位以内だったため、WC枠でないとエントリーできませんでした。
今大会は日程、開催場所的にはリマからの連続出場が可能で、女子選手は14人以上がそうしていました。ところが上記の日本のトップ選手がエントリーしなかったのには、2つの理由が考えられます。
- Tリーグの日本生命レッドエルフ vs 木下アビエル神奈川戦(8月11日)を優先した。
- エントリー申請したもののWR20位以内の制限(PDR)により拒否された。さらにWC枠・WTT推薦枠でも選出されなかった。
早田ひな選手は今大会にWTT推薦枠で選出されました。出場する選手の顔ぶれもドローも運の要素が大きいです。
シングルス:優勝
順当なら準々決勝で田志希選手と、準決勝でセーチ選手か陳思羽選手と、決勝でディアス選手か鄭怡静選手と当たるドローでした。ところがR16までで田志希選手、ディアス選手、鄭怡静選手が敗退しました。特に5ゲームマッチで順当に勝つことの難しさを痛感しました。
早田ひな選手は準々決勝でパバド選手、準決勝でセーチ選手、決勝でリンダ・ベリストレム選手に勝って優勝しました。
Round 32(1回戦)
韓国の崔孝珠(チェ・ヒョジュ)選手との対戦でした。崔孝珠選手は左シェーク裏表前陣速攻型です。WTTスターコンテンダードーハ2021ⅡのR16以来の対戦となりました。
第1ゲームは接戦になりましたが、第2ゲーム以降は崔孝珠選手のボールに順応し、ストレートで勝つことができました。
- 第1ゲーム、早田選手がリードする展開で8-5になります。サーブ、両ハンドの精度が良く、声も出ています。ところがここからバックハンドのミスが増え、甘いボールをカウンターされるなどして8-9と逆転されます。9-9の勝負どころでバック対バックのラリー戦を制し、最後はミドル深くを攻めて逃げ切ります。この第1ゲームを取り切れたのが大きかったです。
- 第2ゲーム、接戦で4-4まで競ります。そこから流れをつかんだ早田選手がリードを広げ、11-6でこのゲームも取ります。第1ゲームよりミスが減り、カウンターを喰らう回数も減りました。
- 第3ゲーム、早田選手のプレーの精度が上がり、8-3と大量リードします。サーブが効いていました。最後も得点源としているサーブ3球目攻撃を連続で決めて11-5で勝ち切り、難しい初戦をものにしました。
早田選手はレシーブが積極的で両ハンドドライブの精度が高く、仕上がりは良さそうでした。
なおこの試合、ベンチに入ったのは石田コーチではなかったようです。映像では確認できませんでしたが、チームひなの金惠美コーチだと思われます。
フル動画。
ハイライト。
Round 16(2回戦)
スウェーデンのクリスティーナ・シェルベリ選手との対戦でした。初対戦です。予選を第12シードで勝ち上がってきました。
ストレート勝利だったものの、第2、第3ゲームは落としてもおかしくない苦しい展開でした。勝てて良かったです。
- 第1ゲーム、精度の高いプレーで流れをつかみ9-2と大量リードします。シェルベリ選手の追い上げを振り切って11-6でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、シェルベリ選手がリードする展開になりますが、7-7で追い付きます。10-8でゲームポイントを握り、10-9の勝負どころでのラリー戦を制してこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、接戦で点差が開かない展開になります。5-5まで競りますが、そこから早田選手がミスを連発して6-10と先にゲームポイントを握られますが、4連続得点でデュースに持ち込みます。石田コーチの「ナイスプレー」がコートに響きます。10-10から激しいラリー戦をエッジボールの運もあって制し、最後はサーブ3球目をスマッシュで決めて勝ち切り、接戦をものにしました。
シェルベリ選手のサーブをレシーブするのにやや苦労していた印象ですが、早田選手の仕上がりは良く、順調に調整できていると思いました。
またこの試合、(中継のマイクが拾った声から)ベンチに入ったのは石田コーチでした。
フル動画。
ハイライト。
ハイライト、WTT制作バージョン。
この試合のスーパープレー。
準々決勝
フランスのパバド選手との対戦でした。初対戦です。R16で田志希選手を倒しています。
勢いのある選手相手に勝ち切れて良かったです。
- 第1ゲーム、7-5までは接戦でしたがそこから流れをつかんで引き離し、11-5でこのゲームを取ります。パバド選手はボールが少しでも浮くと反射的に強打するので要注意です。
- 第2ゲーム、早田選手が精度の高いプレーでリードする展開になります。10-5と大量リードでゲームポイントを握ったものの、そこから10-8と追い上げられます。レシーブ2本の場面で早田選手はタイムアウトを取ります。タイムアウト明けの1本目はチキータレシーブがオーバーになりますが、2本目はバックハンドの強気のレシーブからのラリー戦を制して11-9で取ります。この10-8からの2本で第2ゲームを取り切る姿勢が、この試合の勝敗を分けました。
- 第3ゲーム、早田選手らしいプレーもあって9-5と大量リードしますが、そこからパバド選手の逆襲にあって9-8と1点差にされます。次のネットインがからんだラリーを我慢のプレーで制してマッチポイントを握り、最後身体を折り畳んだフォアハンドドライブを決めて11-8で勝ち切り、難敵との負けられない試合をものにしました。
近年WR上位の選手がパバド選手に苦戦しているので心配していましたが、よく準備できていた印象です。
フル動画。
ハイライト。
ハイライト、WTT制作バージョン。
この試合のスーパープレー。
準決勝
ルーマニアのセーチ選手との対戦でした。今大会の前週に開催されたWTTコンテンダーリマの準決勝で木原美悠選手に勝利しています。
早田選手は仕上がりが良く、抜群の安定感でストレート勝ちでした。
- 第1ゲーム、流れをつかんで6-2と大量しますが、そこから5連続失点で6-7と逆転されます。踏ん張りどころで石田コーチが「ナイスプレー」と叫ぶ3本で9-7とし、最後は10-8からサイドを切るバックハンドを決めてこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、早田選手はプレーの精度が高く、リードする展開になります。セーチ選手のカウンター攻撃に備えたボールを選択しているようでした。サーブ権を持った9-7の勝負どころでセーチ選手のミドルを攻め、11-7でこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、接戦で5-5まで競りますが、そこから流れをつかんで10-5と大量リードでマッチポイントを握ります。最後はフォアハンドドライブをミドルに決めて11-6で勝ち切り、決勝戦進出を決めました。
練習の成果が実戦で出せるよう、しっかり準備をして試合に臨んだと思われます。
フル動画。
ハイライト。
ハイライト、WTT制作バージョン。
この試合のスーパープレー。
試合結果を伝える記事。
決勝
スウェーデンのカットマン、リンダ・ベリストレム選手との対戦でした。WTTコンテンダーアルマトイ2022のR16以来の対戦になりました。
接戦を制して優勝できました。
- 第1ゲーム、得点するための強打でミスが多く、強気のレシーブでもミスが続いてリードを許す展開になります。8-8で追い付きますが、ベリストレム選手が巧くて8-11で逃げ切られます。このゲームで早田選手のラケットが3回空を切りました。ベリストレム選手強いです。
- 第2ゲーム、第1ゲームから一転、強打のミスが減り、流れをつかんでリードする展開になります。11-6でこのゲームを取り返します。
- 第3ゲーム、プレーの精度が上がって失点が減り、大量リードする展開になります。11-3でこのゲームも取ります。
- 第4ゲーム、接戦で点差が開かない展開が続きます。6-7から練習の成果が出たと言える2本を制して8-7と逆転し、11-8でこのゲームも取ってゲームカウントを3-1とします。
- 第5ゲーム、ベリストレム選手の球質に対応できたのか、強打での得点率が上がってリードを広げます。10-4でチャンピオンシップポイントを握り、最後はサーブ3球目をサイドを切るバックハンドで決めて11-4で勝ち切り、欲しかった優勝を手にしました。
決勝戦に相応しい、素晴らしい試合内容でした。早田選手は仕上がりが良く、ゲームの中で修正能力の高さを発揮できました。
フル動画。
ハイライト、WTT制作バージョン。
この試合のスーパープレー。
表彰式。
早田選手の優勝を伝える記事。
試合後のコメント「対戦相手のベリストレム選手は世界屈指の強さを誇るカットマンなので、とても難しい試合でしたが、自分を信じて最後まで戦うことができたのでよかったです。」
みんスポからの公式動画。
まとめ
- WTTシリーズのシングルス優勝は、WTTコンテンダーアルマトイ2022に続いて2回目です。
- WTTコンテンダーアルマトイ2022優勝で獲得した400ポイントが2023年9月19日で失効するため、現在のWRを維持するためにどうしても今大会で優勝して400ポイント獲得したいというのが、チームひなの考えだったはずです。
- 石田コーチは表彰式のインスタライブの中で「地球の裏側まで来た甲斐がありました」と話していました。日本からの移動だけで40時間、時差12時間、Tリーグの試合を4回出ない選択をして挑んだ大会だったので、結果を出せて、優勝できて本当に良かったです。
大会終了後
表彰式での自撮り。
引用:WTTのツイート
石田コーチのインスタグラム。
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後日談
石田コーチのインスタとネット記事から、今大会終了後の動静は次のようなものでした。
- 8月13日(大会最終日)の夜中に空港に到着したものの、日本に接近中の台風の影響で出発できず、急遽ホテルを探すことに。
- 往路は40時間だったのに、帰路は(最初にホテルを出てから)100時間かかり、予定より2日遅れの17日に帰国。
- 2日間のオフを挟んで👍練習を再開したのは20日。21日の週にNTCで行われている代表合宿に参加。
- 25日に大阪で行われたTリーグの試合は、コンディション調整がうまくできず出場を控えた。(8月30日のTリーグのインタビューでの発言。)