WTTスターコンテンダーは世界ランク21位以下の選手向けの大会ですが、上位大会の開催数が少ないこともあって中国を含む世界トップ選手が積極的にエントリーすることが多いです。勝ち上がる難易度はグランドスマッシュと変わらないこともあります。
アジア競技大会に続いて中国で開催された今大会には、中国のトップ選手がびっしり揃いました。世界ランクを上げたい選手にとってはとても厳しいですが、これがスターコンテンダーの現実です。
早田ひな選手はシングルスと混合ダブルスにエントリーし、シングルスはR32敗退、混合ダブルスは準優勝と課題の多く残った大会になりました。
*アイキャッチ画像はテレビ東京卓球情報のXポストからの引用です。
WTTスターコンテンダー
- シニア向けWTTシリーズの下から2番目の大会です。
- 年間最大6大会開催可能です。
- 本戦5日、予選2~3日の日程で選手によっては1日に4試合に出場します。
- シングルス、ダブルス、混合ダブルスの3種目を実施。
- シングルスの本戦は48名、うち8名は予選を通過した選手。
- 予選人数は32、48、64名から開催国が選択します。
- ダブルス、混合ダブルス本戦16ペア、うち4ペアは予選を通過したペア。
- シングルスは各協会から6名までしか出場できません。(世界ランク20位以内の選手を除きます。)また世界ランク21位以降の上位者から優先出場となっています。
- 世界ランク20位以内の選手は、全体で6名しか出場できません。ホスト国はその6名を選ぶ裁量権を持ちます。
- ワイルドカード枠4名、WTT推薦枠2名は上記制限の対象外。
- 前6週以内にグランドスマッシュまたはチャンピオンズに出場した選手は優先度が下がります。
- シングルスの決勝のみ7ゲームマッチ、他はすべて5ゲームマッチ。(2023年からシングルスの準決勝を5ゲームマッチに変更。)
- 優勝選手には600ポイントが付与されます。
大会情報
- 期間:10月2日から8日
- 場所:中国の蘭州(日本との時差1時間、現地10:00が日本の11:00)
- 出場種目:シングルス、混合ダブルス
- 参照:WTT公式サイト、日本卓球協会公式サイト
- パリ五輪選考ポイント付与対象ではありませんが、打倒中国ポイントの獲得対象です。
ネット中継
- WTTがYoutubeチャンネルでT1からT4をリアルタイム配信しました。
- テレビ東京卓球チャンネルは本戦2日目からT1とT2をリアルタイム配信しました。
- テレビ東京卓球チャンネルはアーカイブの公開が迅速ですが、WTT公式チャンネルはしばらく待たされることがあります。
シングルス出場選手
本戦から出場する40名の顔ぶれです。上位6名は全員中国人選手です。早田ひな選手はWR9位で第8シードでした。
日本人選手でエントリーしたのは早田ひな選手、張本美和選手、木原美悠選手、長﨑美柚選手の4名でした。早田ひな選手はWTT推薦、張本美和選手はワイルドカードでのエントリーでした。伊藤美誠選手、平野美宇選手はWR20位以内の制限によりエントリーできませんでした。
シングルス:ベスト32
順当ならR32で劉煒珊選手、R16で朱芊曦選手、準々決勝で王曼昱選手か長﨑美柚選手に当たる、スターコンテンダーでも厳しめのドローでしたが、中国人トップ6選手が勢揃いしているのでしょうがないです。
このドローを受けて、王曼昱選手に勝って準決勝で孫穎莎選手と再戦するのを最低目標にしたと思います。ところがR32で劉煒珊選手に負けてしまい、非常に悔しい結果になりました。
Round 32(2回戦)
中国の劉煒珊(リュウ・ウェイシャン)選手との対戦でした。WTTスターコンテンダーESS2022のR32以来の対戦になりました。
レシーブに苦労させられる状況を改善できず、最後まで劉煒珊選手のボールに合わせらないまま負けました。
- 第1ゲーム、劉煒珊選手のボールに合わせられずオーバーミスを連発しますが、それでも9-9まで競ります。勝負どころのラリー戦で打ち負け、最後は得点源であるはずのサーブ3球目のバックハンドがオーバーになって9-11でこのゲームを落とします。
- 第2ゲーム、苦しめられながらも何とか早田選手がリードを保つ展開になりますが、8-9で逆転されてしまいます。持てる技術を駆使してなんとか9-11でこのゲームを取り返しますが、レシーブで攻められない、サービスエースに頼る、凡ミスが多いと、このままではまずいです。
- 第3ゲーム、劉煒珊選手のボールの球質が分かっていないものの、何とか6-3とリードします。ところが第1ゲームから改善されない凡ミスを繰り返し、9-11で落としてしまい、後がなくなります。
- 第4ゲーム、サーブに苦しめられる上に、真っ向勝負のラリー戦は分が悪いことが分かっているのに対応を変えることができず、リードを許す苦しい展開になります。6-9と追い込まれた状態から9-9と追い付いた後、マッチポイントをやっと出たチキータレシーブでしのいでデュースに持ち込んだものの、フォアハンドドライブの強打がオーバー、距離感の合わないラリー戦のバックハンドのミスで失点し、10-12で悔しい敗戦となりました。
マッチポイントを握られるまでレシーブで攻められなかったし、最後まで劉煒珊選手のボールに合わせることができませんでした。どう対策すればいいのかは分かりませんが、大きな課題を残す結果になりました。でもこれが、まだパリオリンピックまで時間のある時に見つけられて良かったです。
フル動画。
ハイライト。
試合結果を伝える記事。
混合ダブルス:準優勝
今大会はエントリー数が少なく、中国開催もあって中国ペアが4組もエントリーしました。次は上位9ペアの顔ぶれです。
はりひなペアは準々決勝からの登場で、順当なら準々決勝で林高遠/王曼昱ペアと、準決勝で韓国最強ペアと、決勝で王楚欽/孫穎莎の世界最強ペアと当たるドローでした。
はりひなペアは最近満足な結果を残せておらず、ペアも日本卓球協会も危機感を覚えていたはずです。パリオリンピックを考えると、混合ダブルスの世界ランキング2位は絶対に守る必要があります。
準決勝で韓国最強ペアには勝利したものの、決勝で中国の若手ペアに惜しくも負けてしまい、非常に悔しい、そして課題の多い結果となりました。
準々決勝
林高遠/王曼昱ペアとの対戦でした。
中国開催のスターコンテンダーなので、ペアランクは低いものの実力者のペアをぶつけてくるのは、競争なのでしょうがないです。
張本選手が復調し、早田選手がアジア競技大会の好調を維持しており、はりひなペアが強さを見せた形になりました。
- 第1ゲーム、接戦で6-6まで競りますが、はりひならしいプレーで2点のリードを保ったまま10-8とゲームポイントを握ります。最後、張本選手がチキータレシーブを決めて11-8でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、ほぼミスのない早田選手のバックハンドに加え、張本選手のフォアハンドの精度が上がってリードを広げる展開になります。10-5と大量リードでゲームポイントを握りますが、そこからラリー戦で打ち込まれて10-8まで追い上げられます。タイムアウトを使った後、はりひならしいプレーを決めて11-8でこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、中国ペアが思い切ったプレーで攻めてきたのに対し、はりひなペアのミスが増えて3-10でゲームポイントを握られてしまいます。誰もがこのゲームは落としたと思うところ、はりひなペアが流れを引き戻して9-10と追い上げます。それでも一歩及ばず9-11で落としてしまいますが、今日の林高遠/王曼昱ペアは中国トップ選手らしくないです。
- 第4ゲーム、フルゲームにはしたくないところ、3-3まで競りますがそこから流れをつかんで10-5と大量リードでマッチポイントを握ります。最後、張本選手のロングサーブを王曼昱選手がレシーブミスして11-5で勝ち切り、この試合をものにしました。
フル動画。
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準決勝
林鐘勳(イム・ジョンフン)/申裕斌(シン・ユビン)の韓国最強ペアとの対戦でした。
世界ランク2位キープのためには絶対に負けたくない相手です。
流れ的には負けていましたが、なんとか勝ち切りました。危なかったです。
- 第1ゲーム、日本ペアにとって有利なローテーション、5-5まで競りますが、そこから流れをつかんで10-5と大量リードでゲームポイントを握ります。韓国ペアに10-8と追い上げられたところで田勢監督はタイムアウトを取ります。タイムアウト明け、早田選手のサービスから3球目の強打をしっかり決めて11-8でこのゲームを取ります。早いと思えたタイムアウトは、試合後に振り返ると早くありませんでした。
- 第2ゲーム、日本ペアにとって不利なローテーションながら、流れをつかんで5-0とリードします。が、ここから張本選手が申裕斌選手のボールに合わせられなくなり、6-8と逆転されます。組み立て方を変えて台上技術で10-8と先にゲームポイントを握ったものの、韓国ペアに攻められてデュースになります。息詰まる展開が続きますが、最後なんとか激しい打ち合いを2本制して14-12でこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、5-5までは競りますが、そこから林鐘勳選手の豪打に押され、焦りからかミスが増えて6連続失点で5-11であっさり落としてしまいます。
- 第4ゲーム、フルゲームになったら勝てないと思ったのですが、日本ペアにとって不利なローテーションで、韓国ペアに苦しめられます。目を疑いたくなるような連続失点で4-11でこのゲームも落としてしまいます。
- 最終第5ゲーム、日本ペアにとって有利なローテーションからスタート、韓国ペアのミスにも助けられる形で5-1とリードしてチェンジコートします。ここから問題の不利なローテーションですが、8-3まではリードを保ちます。ところがそこから第4ゲームと同じ展開になり、早田選手のフォアハンドドライブにもミスが出て8-9と逆転されてしまいます。敗戦の瀬戸際で何とかラリー戦を制して9-9、張本選手が強気のフリックで10-9とし、最後張本選手がストップしたボールを林鐘勳選手がオーバーミスして辛くも逃げ切りに成功し、決勝進出を決めました。
薄氷の勝利、ちょっとでも運が悪かったら負けてた試合でした。でもこういう苦しい試合をなんとかして勝ち切るのも実力です。この試合を通して見つかった多くの課題を、今後の成長の糧にして欲しいです。
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決勝進出を伝える記事。
決勝
林詩棟/蒯曼の中国新鋭ペアとの対戦でした。準決勝で(連戦の疲れもあって本来の実力を出せなかった)王楚欽/孫穎莎ペアを破っています。
このペアとは世界卓球2023ダーバン大会の準決勝で対戦して勝利しています。
王楚欽/孫穎莎ペアよりはやりやすい相手なので、このチャンスを活かして絶対に勝ちたかったはずです。
準決勝での課題を修正できておらず、悔しい敗戦になりました。
- 第1ゲーム、張本選手のフォアハンドのオーバーミスが多くリードされる展開になりますが、持てる技術にを駆使して逆転し、11-7でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、日本ペアにとって不利なローテーションではりひなペアのミスが増え、悪いの流れのまま9-11で落としてしまいます。
- 第3ゲーム、流れをつかんでリードする展開になり、7-2と大量リードします。そこから中国ペアの追い上げを振り切って、11-7でこのゲームを取り返します。
- 第4ゲーム、ローテーションでこれほどまでに優劣が変わるのかと思うほど苦戦を強いられます。韓国戦に続き、張本選手のフォアハンドが女子のボールに合いません。バックハンドでの対応を増やして8-6と逆転しますが、9-9で追い付かれてしまいます。最後は中国ペアが強さを見せて10-12で落としてしまいます。
- 最終第5ゲーム、5-3でチェンジコートし、問題の日本ペアにとって不利なローテーションに変わります。9-6までリードを保っていたものの、はりひなペアがミスを連発して追い付かれ、2度のマッチポイントをものにできず、11-13で惜しくも負けてしまいました。
優勝できる試合を落としてしまいましたが、今日のはりひなペアの状態で勝てる相手ではなかったということでもあります。
それでも状態が万全でない中、苦しい韓国戦を勝ち切っての準優勝は素晴らしい結果です。
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表彰式。
試合結果を伝える記事。
大会の結果を伝える記事。
まとめ
- シングルスはR32で劉煒珊選手に負けてしまい、ベスト32という悔しい結果でした。最後まで劉煒珊選手のボールに対応できず、今後に向けて大きな課題を残しました。
- 混合ダブルスはペアの調子が万全でない中、決勝で中国若手ペアに惜敗したものの、絶対に負けたくない韓国最強ペアに準決勝で勝ち切ったことで、最低限の目標はクリアできました。はりひなペアは次週オマーンで開催されるWTTコンテンダーマスカットにもエントリーしています。しっかり修正して優勝して欲しいです。
標高1,500mの影響
蘭州の標高は1,500mもありますが、そんな標高の高いところで卓球の大会を開催するのは無理があるようです。
- 気圧が低く空気抵抗が少ないため、普通のドライブしたボールをぶっ飛んで行くそうです。その状況に慣れるのに数日かかるようですが、地上に戻った時にまた調整し直しが必要になります。
- 詳細は分かりませんが、普段では考えられないオーバーミスを繰り返していた選手は、この標高の影響に対応できなかったのかも知れません。
- 空気が薄く、高山病を発症した選手もいたと言われています。試合中にベンチで酸素吸入していた選手もいました。
アジア競技大会からの連戦組は調整期間も満足に取れず、大変だったと思います。それでも、中国のトップ選手はしっかりベスト4に進出するんですよね。
大会終了後
早田ひな選手は蘭州から(次の大会の)オマーンへの移動途中で、インスタグラムストリーズに想いを投稿しました。次はその要約です。一部補足情報を追加しています。
- アジア競技大会は各選手のコーチ陣がいつものようにサポートできないため、団体戦もシングルスの時も、いつもはライバルである4人の選手が練習相手になってくれたり球拾いしてくれたり、最後の最後まで応援してくれたり、本当にみんなに助けられた、忘れられない大会になりました。
- 蘭州大会は調整しきれず、特にシングルスは反省が必要な大会になってしまいました。日程のことは分かっていて、自分自身で出る覚悟を決めて臨んだので、結果は全て自分の実力です。
- この経験が自分をまた一回り強くしてくれる、成長させてくれると感じた大会でした。
- やるべきことがたくさんあるし、これからも何度もするだろう苦しい経験から都度学んでパリまでにより分厚い人間になれるよう頑張っていきたいです。
- オマーン、トルコ、フランクフルトと大会が続きますが、自分を見失わないよう、今回の過ちを繰り返さないよう頑張りたいと思います。
- そしていつもの感謝の気持ち。
早田ひな選手、最高です。