WTTグランドスマッシュはWTTシリーズの最上位大会です。その第2回大会もシンガポールで開催されました。
付与されるWRポイントが高いため、世界ランク上位選手がびっしり出場します。出場選手、大会規模、WRポイント、日程の全てが最上位大会にふさわしいものです。
シングルスはR32でスターシニー選手に負けました。みまひなペアのダブルスは陳夢/王芸迪ペアに負けてベスト4でした。はりひなペアの混合ダブルスは世界最強ペアに負けて準優勝でした。
*アイキャッチ画像はテレビ東京卓球情報のツイートからの引用です。
WTTグランドスマッシュ
- オリンピック、世界卓球選手権大会(個人戦)と同列のWTTシリーズ最上位大会です。
- 年間最大4大会開催可能ですが、大会運営に億円単位の費用がかかるため、開催できる国・協会が限られるようです。
- 本戦10日程度、予選2~3日のゆったりした日程。
- シングルス、ダブルス、混合ダブルスの3種目を実施。
- シングルスの本戦は64名、うち8名は予選64名を通過した選手。
- ダブルス24ペア、混合ダブルス24ペア(共に予選なし)。
- シングルスは本戦、予選合わせて各協会から6名までしか出場できません。また世界ランク上位者から優先出場となっています。
- 世界ランク20位以内の選手参加規制はありません。
- 出場資格を持つ選手が病気や怪我以外の理由で辞退した場合、ペナルティの対象となります。
- シングルスのシードは16名。(2022年までは8名。)
- シングルスの準々決勝、準決勝、決勝のみ7ゲームマッチ、他はすべて5ゲームマッチ。(2023年からシングルスの準々決勝が7ゲームマッチに変更。)
- 優勝選手には2,000ポイントが付与されます。WTTチャンピオンが1,000ポイント、WTTスターコンテンダーが600ポイントですからダントツの高さです。
シンガポールスマッシュ2023
なぜか大会名の頭にWTTを付けないようです。
- 期間:2023年3月7日から19日
- 場所:シンガポール(日本との時差1時間、現地10:00が日本の11:00)
- 出場種目:シングルス、ダブルス、混合ダブルス
- 参照:WTT公式サイト
- パリ五輪選考ポイント付与対象ではありませんが、打倒中国ポイントの獲得対象です。
ネット中継
- WTTがYoutubeチャンネルでT1からT3をリアルタイム配信しました。(日本では視聴制限のためT3のみ。)
- テレビ東京卓球チャンネルは本戦からT1とT2をリアルタイム配信しました。ただしT2の配信は全日ではなく、日本ではT2の試合をリアルタイムで視聴できない日があったことは極めて残念です。テレビ東京卓球チャンネルがT2を配信しない日は、本家WTTのチャンネルの視聴制限は解除して欲しいです。
- リアルタイム視聴できなくても、おおむね24時間以内にはテレビ東京卓球チャンネルにアップされました。ありがたいです。また、試合終了後数時間でスーパープレー集が公開されるなど、卓球愛がなければ無理な対応をして頂き感謝しかありません。
アダム・バブローによるアリーナミニツアー
卓球界最高のコメンテーターであるアダム・バブローによる、アリーナの紹介。
シングルス出場選手
世界ランク(ほぼ)上位36名の顔ぶれです。最上位大会だけあって、ランキング上位選手がびっしり並んでいます。早田ひな選手はWR6位でした。
日本女子は伊藤美誠選手、早田ひな選手、石川佳純選手、木原美悠選手、平野美宇選手、長﨑美柚選手の合計6名でした。
中国人選手は本戦8名(ワイルドカード/推薦の2名を含みます)、予選0名の合計8名でした。
シングルス:ベスト32
早田ひな選手はR16まで中国人選手に当たらない、QFは王曼昱選手か鄭怡静選手という悪くないドローでした。シード選手16名以外は完全なランダムドローなので、ドロー運の要素は大きいです。
最低でもベスト4を目標にしていたと思いますが、R32でスターシニー選手に負けてしまい、極めて残念な大会になりました。付与されたWRポイントは90でした。
Round 64(1回戦)
エジプトのアルホダビー選手との対戦でした。2021年のアフリカ女王です。
アルホダビー選手、強かったです。勝ててよかったです。
- 第1ゲーム、3-3まで競りますが、その後流れをつかんで11-3で取ります。
- 第2ゲーム、接戦になりますが、早田選手のボールに慣れてきたのか強打されたり、ラリー戦で撃ち負ける回数が増え、6-10とゲームポイントを握られます。9-10まで追い上げますが、最後厳しいコースに決められて9-11でこのゲームを落としてしまいます。
- 第3ゲーム、アルホダビー選手はラリー戦に強く、9-9まで競ります。10-9とした後、ツッツキを浮かせてしまい下げられた不利なラリー戦になりますが、最後間合いを詰めてフォアハンドを決めます。このゲームを落としていたら負けていたかもしれない、際どいワンプレーでした。
- 第4ゲーム、プレーの精度が上がり、ラリー戦のミスが減って早田選手がリードする展開になります。第2、第3ゲームより危なげない試合運びで11-6で勝ち切り、難しい初戦をものにしました。
第3ゲームを取りきったのが大きかったと思います。
フル動画。
ダイジェスト。
勝利インタビュー。
ミックスゾーンでのインタビュー。
試合後のインタビュー記事。「今は自分の卓球をまた取り戻すために、徐々にプレーを作り直している段階です。」
Round 32(2回戦)
タイのスターシニー選手との対戦でした。初対戦です。
好調のスターシニー選手に対し、早田選手は明らかに調整不足でミスが多く、らしくない負け方をしてしまいました。
- 第1ゲーム、オーバーミスが続いて0-5と大量リードされます。フォアハンドのミスを減らして6-6と追いつきますが、スターシニー選手の強打に対応できず8-11で落とします。
- 第2ゲーム、流れをつかんで6-1と大量リードしますが、スターシニー選手の思い切りのより攻撃に押されて10連続得点で6-11でこのゲームも落としてしまいます。スターシニー選手はミスが少ないですが、それにしても早田選手らしくないです。
- 第3ゲーム、攻撃の組み立てが良くなり、ミスも減って早田選手がリードする展開になります。11-4でこのゲームを取り返します。ようやくエンジンがかかってきました。
- 第4ゲーム、接戦になり7-7まで競りますが、そこから抜け出して11-7でこのゲームも取ります。ゲームカウントは2-2に。
- 最終第5ゲーム、接戦で4-4まで競りますが、両ハンドのミスによる失点が重なり試合の流れを持っていかれます。勢いに乗ったスターシニー選手を抑えきれず、4-11で負けてしまい、残念な敗戦となりました。
両ハンドの感覚が整っていなかったのでしょう。試合前にいつもの実力を発揮できるようにする「調整能力」が求められますね。
フル動画。
ダイジェスト。
結果を伝える記事。
ダブルス:ベスト4
みまひなペアは勝ち上がると準決勝で陳夢/王芸迪ペアと、決勝で孫穎莎/王曼昱の世界最強ペアと当たるドローでした。
結果、準決勝で陳夢/王芸迪ペアに負けてしまいベスト4でした。今大会の調子では、世界最強ペアとの再戦すらできませんでした。
Round 16(2回戦)
鄭怡静/李昱諄の台湾ペアとの対戦でした。
第3ゲームはデュースになりましたが、ストレートで勝てました。
- 第1、第2ゲームはミスが少なく台湾ペアを圧倒しました。
- 第3ゲーム、接戦で点差が開かない展開になりますが、10-7とマッチポイントを握ります。そこからミスが続いてデュースになりますが、12-10で逃げ切りました。
フル動画。
ダイジェスト。
ハイライト。
勝利インタビュー。
試合後のインタビュー。伊藤美誠選手のみ。早田ひな選手は混合ダブルスに備えて練習優先かな。
みまひなペアのベスト8進出を伝える記事。
準々決勝
ベリストレム/カールバーグのスウェーデンペアとの対戦でした。ベリストレム選手は守備型(カットマン)、カールバーグ選手は攻撃型です。
勝てて良かったです。
- 第1ゲーム、みまひなペアにミスが多く、スウェーデンペアにリードされる展開になります。不安な感じのまま7-11で落とします。
- 第2ゲーム、ミスが減って流れをつかみ、11-2と圧倒します。
- 第3ゲーム、流れをつかんで11-4と圧倒しますが、みまひなペアにとってラッキーな得点が多く、ゲーム内容は点差ほどの良いものではありませんでした。
- 第4ゲーム、ラッキーは続かず接戦になり、7-7まで競ります。7-9とリードされますが、ここから強気で攻めて11-9で勝ち切り、この試合をものにしました。
勝ちましたが、みまひなペアの調子は上がっていない感じでした。
フル動画。
ダイジェスト。
みまひなペアのベスト4進出を伝える記事。
準決勝
陳夢/王芸迪の中国ペアとの対戦でした。グランドスマッシュでは同国ペアは1組しか出場できないのですが、このペアはワイルドカード/WTT推薦枠での出場です。
今日のみまひなペアの調子で勝てる相手ではありませんでした。
- 第1ゲーム、攻撃力に勝る中国ペアがリードする展開になり、6-10とゲームポイントを握られます。2点差まで追い上げますが、8-11で落としてしまいます。
- 第2ゲーム、中国ペアはみまひなペアの弱点を理解していて、厳しいコースを攻め、7-10とゲームポイントを握られます。そこから攻めて、ナイスプレーも出てデュースに持ち込んだものの、この試合のリプレーを見るような失点をし、10-12でこのゲームも落としてしまいます。
- 第3ゲーム、調子が上がらず1-5と大量リードされます。そこから追い上げ、中国ペアのミスにも助けられて11-7で取り返します。
- 第4ゲーム、接戦になり点差が開かない展開になりますが、最後は中国ペアに8-11と競り負け、決勝進出を逃しました。
課題の多い試合内容でしたね。
フル動画。
ダイジェスト。
ハイライト。
ミックスゾーンでのインタビュー。
準決勝の結果を伝える記事。
テレビ東京「みんスポ」からの公式動画。
混合ダブルス:準優勝
はりひなペアは勝ち進むと準決勝で樊振東/王曼昱ペア、決勝で王楚欽/孫穎莎の世界最強ペアと当たるドローでした。
準決勝で樊振東/王曼昱ペアにストレートで勝利して決勝に進みましたが、王楚欽/孫穎莎ペアに敗れて準優勝でした。
Round 16(2回戦)
ガルドシュ/ポルカノバのオーストリアペアとの対戦でした。WTTコンテンダーザグレブ2022の準々決勝で対戦しています。
勝てて良かったです。はりひなペアの調子は悪くないようでした。
第3ゲームをデュースの末に落としてしまいましたが、はりひなペアの調整能力の高さが感じられた試合でした。
フル動画。
ダイジェスト。
ミックスゾーンでのインタビュー。音声が聞きづらい。
ミックスゾーンでのインタビュー。こちらの方がいい。おすすめ。
はりひなペアのベスト8進出を伝える記事。
準々決勝
グナナセカラン/バトラーのインドペアとの対戦でした。WTTスターコンテンダーESS2022の準決勝でも対戦している難敵です。
厳しい試合でしたが、勝ててよかったです。
- 第1ゲーム、実力拮抗で接戦になり10-9まで競ります。最後、張本選手のレシーブエースが決まって11-9で大事な1ゲーム目を取ります。
- 第2ゲーム、流れをつかんで10-4と大量リードしますが、ミスが続いて10-8と追い上げられます。タイムアウト後、10-9の場面で張本選手の素晴らしいプレーが決まり、このゲームも取ります。
- 第3ゲーム、ミスが増えて3-9と大量リードされます。そこから追い上げたものの、8-11で落とします。
- 第4ゲーム、ややミスが多いはりひなペアに対し、インドペアの強烈な攻撃が決まる回数が増え、5-11でこのゲームも落としてしまい、ゲームカウントは2-2に。
- 最終第5ゲーム、はりひなペアが躍動し8-4と大量リードします。この点差をキープして11-7で勝ち切り、難しい試合をものにしました。
早田選手は同日に行われたシングルスR32でスターシニー選手に負けており、メンタル的に難しかったと思います。その早田選手を安定したプレーで支えた張本選手は本当に頼れる漢です。
フル動画。
ダイジェスト。
勝利インタビュー。
準決勝
樊振東/王曼昱の中国ペアとの対戦でした。グランドスマッシュでは同国ペアは1組しか出場できないのですが、このペアはワイルドカード/WTT推薦枠での出場です。
ペアの経験は浅いものの、強敵であることは確かです。
はりひなペアが躍動して、誰もが予想しなかったストレート勝ちでした。
- 第1ゲーム、はりひなペアはミスが少なく、攻撃時のコース取りも良くリードする展開になります。あっという間に11-4でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、点差が開かない展開で6-6まで競ります。そこからはりひなペアが抜け出して10-7とゲームポイントを握ります。そのまま振り切って11-8でこのゲームも取ります。
- 第3ゲーム、接戦で点差が開かない展開が続きます。10-9とマッチポイントを握りますが、デュースになります。そこから張本選手のバックハンド、早田選手のフォアハンドが決まって12-10で勝ち切り、決勝進出を決めました。
はりひなペアの仕上がりがすこぶる良かったです。
フル動画。
ダイジェスト。
ハイライト。
特集動画「超攻撃的ダブルス」。
勝利インタビュー。
ミックスゾーンでのインタビュー。
はりひなペアの決勝進出を伝える記事。
決勝
王楚欽/孫穎莎の世界最強ペアとの対戦でした。世界卓球2021ヒューストン大会の決勝でも対戦しています。
前回対戦時よりは良い戦いができましたし、差が縮まっていると思いましたが、勝つことはできませんでした。
- 第1ゲーム、ミスの多いはりひなペアに対し、王楚欽選手のコースが厳しく強いボールが効果的に決まり、2-11であっさり落とします。
- 第2ゲーム、接戦で4-4まで競りますが、そこから流れをつかんで11-5で取り返します。調子が上がってきました。
- 第3ゲーム、王楚欽選手の豪打に押されながらも接戦で6-6まで競ります。中国ペアにリードを許すも、はりひなペアも素晴らしいプレーで9-9と追いつきますが、一歩及ばず9-11で落とします。
- 第4ゲーム、世界最高水準の混合ダブルスラリーの応酬が続き、8-9まで競りますが、このゲームも一歩及ばず8-11で落とし、ゲームカウント1-3での負け、準優勝となりました。
王楚欽/孫穎莎ペアは世界最強です。そのペア相手にここまで戦えるペアはいません。パリオリンピックの混合ダブルスははりひなペア以外には考えられないですね。
それから王楚欽選手は紳士です。憎たらしいほど強いですが、好きです。
フル動画。
ダイジェスト。
スーパープレー集。
表彰式。
決勝の結果を伝える記事。
テレビ東京「みんスポ」からの公式動画。
まとめ
- シングルスはR32でスターシニー選手に負けてしまい、非常に悔いが残る結果になりました。
- ダブルスは明らかに調整不足で実力を発揮できず、陳夢/王芸迪ペアに負けてベスト4でした。
- 混合ダブルスは樊振東/王曼昱ペアを破って決勝に進みましたが、王楚欽/孫穎莎の世界最強ペアに負けて準優勝でした。
おまけ
石田コーチのインスタグラムから。
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早田ひな選手からファンへのメッセージ。
皆さん連日たくさんの応援ありがとうございました。インドから自分自身シングルスとインドのミックスダブルス、本当にこう自分の未熟さを感じたというか、まだまだ本当に全然経験が足りなかったりとか、自分自身が納得できない時に自分自身をどう乗り越えていくのかっていうのがやっぱりわからないまま試合をしてて、でも今回のシングルスと負けた後ミックスダブルス、ダブルスでは本当に良い状態で試合をすることができて、この2大会ですごい自分が感じたことない経験をさせてもらったんですけど、自分自身が今ここにいるのは本当にたくさんの方が支えてくれて、たくさんの方が応援してくれて良い時も悪い時も常にサポートしてくれる方々がいるからこそ自分自身はここで日本代表と して戦うことができていると思うので、そういった気持ちを忘れず次からの試合を連戦が続いて疲労はやっぱりどの選手にもあると思うんですけど、勝ちたいという気持ちを忘れずに頑張りたいと思います。
ありがとうございました。
文字起こしの元動画:【試合後のコメント】シンガポールスマッシュ女子複ベスト4の伊藤美誠/早田ひなペアからファンへのメッセージ
大会終了後
シンガポールから日本への航空便が満席で、帰国できたのが20日月曜の夜中、そしてTリーグ・プレーオフ・セミファイナルが22日でした。そのセミファイナルで2勝した後のインタビューで、次のように答えていました。
全日本が終わってから、3回くらい体調が悪くなって、自分で感じるほど卓球の調子が落ちるのが分かりました。
WTTスターコンテンダーゴア、シンガポールスマッシュのシングルスは明らかに調整不足でした。ケガの予防と体調管理は早田ひな選手の大きな課題ですね。
Tリーグ・プレーオフファイナルで、平野美宇選手にストレート勝利した後のインタビュー記事にこうありました。(一部表現を変更しています。)
22日のセミファイナルまで陥っていた不調から中3日で休養と練習を重ね「一気に感覚も状態も戻った」と実感した。
セミファイナル前まで約1カ月半続いた不調を「初めて卓球がやりたくない、できないと思うぐらい追い込まれていた」と振り返る。その中でセミファイナル、ファイナルと大勢の観客に包まれる中で試合し「私の試合を見に来てくださる方を見ると、卓球をやって良かった。またどん底に落ちないよう、自身と向き合わないと」と精神面で成長する必要性を感じていた。
次は別の記事から。
今回、1ヶ月半くらいずっと試合をしていて、自分の人生の中で、はじめて卓球ができないかも、と思うくらい追い込まれていました。
でも、こうやって私の試合を観に来てくださった方々を見ると、卓球をやっててよかったなと改めて思います。今回、どん底に落ちたとき、どうやって這い上がっていくかなど、いろいろな良い経験になりました。
インドのゴア、シンガポールの2大会のような試合を今後絶対にしないように自分自身と向き合い、4月の中国、マカオ、選考会に向けて調整していきたいと思いました。
そんなに深刻な不調だったのですね。中国でのWTTチャンピオンズ2大会まで2週間あるので、しっかり休養・調整して万全な状態で臨んで欲しいです。