はりひなペアは混合ダブルスの日本代表ですが、まだ代表候補だった頃、まずはパリオリンピックの出場権を獲得する必要がありました。世界卓球2024釜山大会で男女ともに、団体戦とシングルスの出場権を獲得しましたが、混合ダブルスの出場権はそれらとは別に獲得する必要があったのです。
また、優勝を目指す上で絶対に達成したいのが、第2シードの確保です。100%第1シードになる世界最強の中国ペアと決勝まで絶対に当たらないようにするには、第2シードを確保するしかありません。第3、第4シードだと確率1/2で(ドローにより)中国ペアと準決勝で当たってしまいます。
この記事は、はりひなペアのパリオリンピック本番に向けた戦いの記録です。
*アイキャッチ画像はこちらの記事からの引用です。
結果:第2シード奪取に成功
パリオリンピックの出場権は、世界ランキング枠で獲りました。これは想定通りで波乱はありませんでした。問題だったのが第2シードの確保です。
林鐘勳/申裕斌ペアが圧倒的に有利な状況の中、対象となったパリオリンピック前最後の4大会すべてで優勝し、林鐘勳/申裕斌ペアが最後の大会の準決勝で地元のタイペアに不覚を取ったこともあって、パリオリンピックの第2シード奪取に成功しました。
次はWRポイントの差の推移をまとめたものです。シンガポールスマッシュで(早田ひな選手が体調不良で)林鐘勳/申裕斌ペアに負けた時には1,347という絶望的な差がありました。
それをサウジスマッシュで詰め、ザグレブ、リュブリャナで林鐘勳/申裕斌ペアに勝って優勝したことで、厳しい条件ですが逆転の可能性が出てきました。そして絶対に負けてはいけないチュニスとバンコクで全勝し(最後の4大会は連続優勝)、バンコクで林鐘勳/申裕斌ペアが準々決勝で敗退する波乱もあって、歴史的逆転による第2シード奪取になりました。
第2シード奪取を決める試合に優勝して、田勢監督に駆け寄ってハグする早田ひな選手。
Relive the moment Tomokazu Harimoto and Hina Hayata sealed their second straight #WTTStarContender Mixed Doubles title 🏆#WTTBangkok #PingPong #TableTennis pic.twitter.com/aFeWTUDIJ5
— World Table Tennis (@WTTGlobal) July 7, 2024
混合ダブルスのパリオリンピック出場枠
混合ダブルスのパリオリンピック出場枠は16ペアしかありません。そして出場資格は協会ではなくてペアに与えられます。
- 各協会から出場できるのは最大1ペアのみ。
- 大陸予選枠が6、うちアジアの1枠は不使用で世界ランキング枠へ。
- 混合ダブルス世界予選枠が4、予選会の上位4ペアが出場権を獲得。
- 世界ランキング枠が6、うちひとつは大陸予選枠のアジア分。
- 開催国枠が1、フランスペアが獲得します。
出場資格はペアに与えられるため、例えばある国の選手A、Bのペアに与えられ、その選手AまたはBがパリオリンピックのシングルスの出場資格を持たない場合、自動的に団体戦メンバーになります。
以下、記事内容は時系列で進みます。
大陸予選枠
大陸予選枠にて次の5ペアが出場権を獲得済みです。
- ドイツ:チウ・ダン/ニーナ・ミッテルハムペア
- ブラジル:ビトル・イシイ/ブルーナ・タカハシペア
- エジプト:オマール・アサール/ディナ・メシュレフペア
- キューバ:Jorge CAMPOS/Daniela FONSECA CARRAZANAペア
- オーストリア:ジー・ミンヒョン/ニコラス・ラムペア
アジアの大陸予選枠は、2023年アジア選手権大会で優勝した林高遠/王芸迪ペア(王楚欽/孫穎莎ペアはエントリーしていない)に付与されましたが、当然辞退となりました。そのためアジアの大陸予選枠は世界ランキング枠に回りました。
混合ダブルス世界予選枠
2024年4月11日、12日にチェコでパリオリンピック混合ダブルス世界予選会が開催されます。次のペアがエントリーしています。ポイントは5月7日有効のものです。
- はりひなペアと林鐘勳/申裕斌ペアはシンガポールスマッシュ2024終了後に相次いでキャンセルになりました。情報が一切ありませんが、世界ランキング枠で獲得できると判断したのでしょう。
- その後、林昀儒/陳思羽ペアもキャンセルになりました。
- 中国の世界最強ペアはそもそもエントリーしていません。世界ランキング枠で100%獲得できますからね。またフランスは開催国枠で獲得できるので、エントリーしていません。
はりひなペアが世界ランキング枠で獲得するのは確実
はりひなペアと林鐘勳/申裕斌ペアがパリオリンピック混合ダブルス世界予選会をキャンセルしたのは、シンガポールスマッシュ2024の結果を受けて世界ランキング枠で出場権を獲得できると判断したからでしょう。また、そのわずか3日後にワールドカップマカオ2024(個人戦)が始まるため、(パリオリンピックのシングルスと団体戦のためにWRを上げるために極めて重要な)ワールドカップへの調整を優先したのだと思われます。
世界ランキング枠は6で、5月7日の混合ダブルス世界ランキング順に付与されます。サウジスマッシュは対象外、WTTチャンピオンズ仁川2024とワールドカップマカオ2024はシングルスのみなので、残る対象大会はフィーダーシリーズだけです。フィーダーは優勝しても125ポイントしか付与されないこと、エントリー状況からはりひなペアが世界ランキング3位で5月7日を迎えることは確実です。
パリオリンピック混合ダブルス世界予選会
はりひなペアは出場しませんが、次のような試合形式の大会です。独特ですね。
- 2つのステージで4ペアを選出します。
- 大会初日にWRをもとに2つのトーナメントグループを作ります。R16から(上位ペアは準々決勝から)で各グループの優勝ペア(合計2ペア)に出場権が付与されます。この2ペアはステージ2には進みません。
- 大会2日目に初日の結果とWRをもとに2つのトーナメントグループを作ります。各グループの優勝ペア(合計2ペア)に出場権が付与されます。
- 試合は全て7ゲームマッチです。現在混合ダブルスで7ゲームマッチを採用しているのはオリンピックとこの予選会だけですね。
混合ダブルス世界予選枠を獲得したのは
パリオリンピック混合ダブルス世界予選会を勝ち抜いた、次の4カ国が混合ダブルス世界予選枠を獲得しました。実力者のインドペアは勝ち上がれず、涙を飲みました。
- 北朝鮮:RI Jong Sik/KIM Kum Yongペア
- 香港:黄鎮廷/杜凱琹ペア
- スペイン:ロブレス/シャオ・マリアペア
- スウェーデン:カールソン/シェルベリペア
北朝鮮ペアは不気味ですね。パリオリンピック本番では反対の山に入って欲しいです。
パリオリンピック第2シード確保に向けて
パリオリンピックの混合ダブルスのシードは7月16日のWRで決まります。次は現在(シンガポールスマッシュ終了時点)の保有ポイントの7月16日有効分をまとめたものです。(計算間違っているかも)同一国の最上位でないペアは除外しています。
第2シードを確保するには韓国ペアを上回る必要がありますが、現在ポイント差が1,347もあります。この差を7月16日までに逆転するのは非常に厳しいです。5月のサウジスマッシュで韓国ペアより先に負けると絶望的です。また、コンテンダー、スターコンテンダーには出まくるしかないですね。出たくなくても韓国ペアが出る場合は出るしかないですね。
よく見ると現在3位から5位は僅差で、はりひなペアは4位なのでマジで状況は厳しいです。
世界ランキング枠で出場権を獲得
5月7日更新の世界ランキングにより、はりひなペアを含む6カ国が出場権を獲得しました。
- 中国:王楚欽/孫穎莎ペア
- 韓国:林鐘勳/申裕斌ペア
- 日本:張本智和/早田ひなペア
- 台湾:林昀儒/陳思羽ペア
- ルーマニア:イオネスク/セーチペア
- ハンガリー:Dora Madarasz/Nandor Ecsekiペア
なお、開催国のフランスからはA・ルブラン/ユアン・ジアナンペアが出場します。
混合ダブルスのシードに関係する大会
各大会終了後に更新して来ました。僕の気持ちが揺れる様子もそのまま残しています。
サウジスマッシュ2024(5月1日から11日)
3位以下に順位変動がありました。はりひなペアは3位に上昇しました。第2シードはまだ遠いです。
WTTコンテンダー太原2024、WTTコンテンダーリオデジャネイロ2024(5月20日から26日)
リオの結果から、現状では第2シードを確保するのは絶望的です。よって、第4シードを守れば良いという方針に転換すべきと考えます。第2シードを確保しようと、パリオリンピック前に混合ダブルスがある大会に出続けることは、デメリットの方が大きいと考えます。
WTTコンテンダーメンドーサ2024(5月27日から6月2日)
メンドーサにはスペインのロブレス/シャオ・マリアペア、スウェーデンのカールソン/シェルベリペアが出場していました。スペインペアは優勝すると275点増やすことができたのですが、田中佑汰/長﨑美柚ペアが準々決勝でスペインペアに勝利するという援護射撃により、保有ポイントの増加を阻止できました。これは第4シード確保に向けて、はりひなペアに余裕を与える大きな勝利になりました。
WTTコンテンダーザグレブ2024(6月3日から9日)
スペインペアと香港ペアが準々決勝で敗れたのに対し、はりひなペアは決勝に進出することで第4シード確保が見えてきました。ザグレブでは韓国ペアに勝って優勝しましたが、第2シードを狙うのは、可能性はあるものの、難しい状況です。
WTTスターコンテンダーリュブリャナ2024(6月10日から16日)
スペインペアが準決勝で、香港ペアがR16で敗れたのに対し、はりひなペアは苦しい試合に耐えながらも決勝に進出しました。反対の山では林鐘勳/申裕斌ペアが順当に勝ち上がり、迎えた決勝戦では運も味方に付け、苦しみながらもフルゲームの接戦を制して優勝しました。
これにより林鐘勳/申裕斌ペアとの差が縮みました。
残る対象試合での、林鐘勳/申裕斌ペアの勝ち上がり次第ですが、はりひなペアがパリオリンピックの第2シードを取れる現実的な可能性が出てきました。難しいことは変わらないのですが、試合はやってみなければ分からないものです。
林鐘勳/申裕斌ペアはラゴスに出場、チュニスは回避。はりひなペアはラゴスは回避、チュニスに出場します。謎のペアが多いラゴスで林鐘勳/申裕斌ペアが早期敗退すると、はりひなペアにチャンスが巡って来ます。
WTTコンテンダーラゴス2024(6月17日から23日)
シード権争いをしているペアで出場したのは林鐘勳/申裕斌ペアだけでした。そして優勝したのではりひなペアとの差を280から505に広げました。
はりひなペアはチュニスで優勝して、最後の望みをバンコクに賭けることになります。が、林鐘勳/申裕斌ペアが決勝まで進むと、逆転は不可能です。厳しいですね。
WTTコンテンダーチュニス2024(6月24日から30日)
林鐘勳/申裕斌ペアは不出場、はりひなペアは優勝して差を210に縮めました。
はりひなペアはバンコクでの第2シード奪取に望みをつなぎましたが、その条件は非常にきびしいものです。
- はりひなペアが優勝する。
- 林鐘勳/申裕斌ペアがベスト4以下。(決勝に進出しない。)
WTTスターコンテンダーバンコク2024(7月2日から7日)
林鐘勳/申裕斌ペアが準々決勝で地元タイペアに負けたため、優勝すれば自力で第2シードを奪取できるようになりました。そして準決勝で台湾ペア、決勝で香港ペアに勝って優勝し、パリオリンピックの第2シードを手にしました。
パリオリンピック本番に向けて
第2シードを獲得できたので、パリオリンピックでは決勝まで王楚欽/孫穎莎ペアと当たりません。でもはりひなペアに気の緩みは欠片もありません。
🏓#WTTスターコンテンダーバンコク🇹🇭#はりひな 優勝インタビュー🎤
🇯🇵#張本智和
「ちょっと信じられない。頑張っていれば報われるんだなと。油断せずに今の2人だったらメダルを取れる」🇯🇵#早田ひな
「五輪はこれよりも想定していないことが起こりうる。五輪まで充実した練習ができたらいい」 pic.twitter.com/ACEA18LSTi— テレ東卓球情報 (@tvtokyo_tt) July 7, 2024
7月16日更新のランキング
パリオリンピックのシードは7月16日に更新されたWRで行われます。次はその結果です。
計算通りでした。はりひなペアは林鐘勳/申裕斌ペアと110ポイント差で第2シード獲得です。
第2シード奪取への挑戦を振り返って
第2シードは林鐘勳/申裕斌ペアが圧倒的に有利な状況で、はりひなペアが奪取するには過密日程の中、対象大会に出場し続ける必要がありました。そして自力ではダメで、林鐘勳/申裕斌ペアの早期敗退がないと達成できない目標だったため、僕は怪我のリスクを考慮して、リオデジャネイロで負けた後、第2シードは諦めた方が良いと思いました。
それでもはりひなペアは諦めないで、僅かな可能性に賭けて挑戦を続け、最後の大会で運にも恵まれて見事に第2シード奪取に成功しました。素晴らしかったです。何より二人がパリオリンピック前の怒涛の連戦を、怪我なく終えられたことが良かったです。