2022年に続いて2回目の開催となったTリーグ個人戦ですが、事実上、興行イベント色を付けた小型版パリオリンピック選考会です。Tリーグ個人戦をパリオリンピック選考ポイントを付与対象にしたのがそもそもの間違いだったと思うのですが、決めてしまったことなのでそのルール内で競争に勝つしかありません。
早田ひな選手は準決勝で伊藤美誠選手に敗れ、3位決定戦で大藤沙月選手に勝利して結果3位でした。
*アイキャッチ画像はTリーグ公式サイトからの引用です。
Tリーグ個人戦の仕様
- 2022年に続いて企画された個人戦。パリオリンピック選考ポイント付与対象となったことから、興行と選考会が混ざった位置づけがあやふやなものになってしまいましたが、2023年も続行となりました。
- 男女ともに24名によるトーナメント戦。
- Tリーグ所属選手でなくても日本卓球協会の推薦により出場可能としたのは、パリオリンピック選考ポイントを付与対象とする以上やむを得ない判断ですね。
- Tリーグ個人戦でありながら、日本人しか出場できない制約がある点も商業イベントとパリオリンピックの選考会をごっちゃにした結果です。
- 全試合7ゲームマッチ。3位決定戦あり。
出場選手選出基準はこうでした。
①第4回パリオリンピック選考会終了時点の選考ポイント上位のTリーグ所属選手4名
(例:2位の選手がTリーグ登録選手でない場合、この選手を飛ばして5位の選手をこの枠で選出)
②実行委員会推薦選手 各チーム3名(合計18名)
③日本卓球協会強化本部推薦枠(2名)以上合計24名
※チーム推薦が3人に満たない場合、公益財団法人日本卓球協会 強化本部推薦枠を増加
※上記①の「Tリーグ所属選手」、②で実行委員会推薦対象となる選手は、2023年5月16日までにTリーグへの選手登録が完了した選手とする。
驚いたことに、ドロー順序要領は事前公表されませんでした。選手、コーチにいつ案内されたのかは不明です。ドロー時の説明はこうでした。
①2023年全日本卓球選手権大会シングルス優勝者。
②ノジマTリーグ2022-2023レギュラーシーズンのシングルス勝利数上位。勝利数にはビクトリーマッチを含む(同数の場合は勝率の上位)
③上記に該当しない選手は日本卓球協会強化本部で順序を決定。
これは2022年と同じ内容です。(昨年に続いて)シード1位を全日本選手権優勝者とするのは極めて不自然です。これは男子のドローで張本選手と戸上選手が決勝まで当たらなくなることから、採用したのだと想像しています。
でもそのルールにより、Tリーグの勝利数だと第7シードだった早田ひな選手は第1シードになれたのですが、それが良かったのかどうかは何とも言えないです。
順位に応じてパリオリンピック選考ポイントが付与されます。
次はパリオリンピック選考会(第4回以降)で付与されるポイントです。
Tリーグ個人戦1位はパリオリンピック選考会の半分のポイントが付与されますが、順位が下がると急激に少なくなります。(ポイント配分の傾斜がきついです。)
大会情報
- 期間:2023年6月17日、18日
- 場所:東洋大学赤羽台キャンパス HELSPO HUB-3アリーナ
- 開催種目:シングルスのみ
- 参照:Tリーグ公式サイト
ネット中継
TリーグNOJIMA CUP 2022のネット中継は非常に不満の多いものでしたが、その反省を活かした素晴らしい対応になりました。
- 特定の試合を除いて、全テーブルの全試合がYouTubeのTリーグ公式チャンネルで生配信されました。ありがたいです。
- メインコートで開催される男女の第2試合、3位決定戦、決勝戦の合計6試合は、NTTドコモの新動画配信プラットフォーム「Lemino」の独占生配信でした。広告付き無料配信という意欲的な試みでした。
- つまり、全テーブルの全試合がYouTubeかLeminoで生配信されたわけです。素晴らしいです。
ところが、準決勝の途中でLemino配信の時間が近づくとYouTubeでの配信がいきなり中止になり、Leminoでの配信もしばらく始まらず空白の時間が生まれるなど、運用上とても残念なことがありました。これは改善して欲しいですね。
当日Leminoで配信された試合動画が日数をおいてYouTubeで公開されています。試合動画のリンクはLeminoよりもYouTubeを優先しています。
ドロー
ドローは大会前日に会場近くの味の素ナショナルトレーニングセンターにて行われました。YouTubeのTリーグ公式チャンネルで生配信されました。
出典:Tリーグ公式ホームページ
第1シードは2023年全日本選手権大会の優勝者である早田ひな選手です。第2シード以降はTリーグ2022-2023レギュラーシーズンの勝利数順でした。
早田ひな選手は、順当なら準々決勝で張本美和選手と、準決勝で伊藤美誠選手と、決勝で平野美宇選手か木原美悠選手と当たる、普通に厳しいドローでした。
ドロー後の記者会見。「体調は問題ない」。
試合結果
早田ひな選手は準決勝で伊藤美誠選手に敗れ、3位決定戦で大藤沙月選手に勝利して結果3位でした。
早田ひな選手にとって、(好調時の)伊藤美誠選手はまだ超えられていない壁ですね。
Round 16(2回戦)
横井咲桜選手との対戦でした。第4回パリオリンピック選考会のR16ではあと1本で負ける苦戦を強いられました。
第4ゲーム以降、今日の横井選手に勝つ方法を見つけたようでした。難敵に勝てて良かったです。
- 第1ゲーム、早田選手がリードする展開になり、危なげなく11-7で取ります。
- 第2ゲーム、早田選手のミスが増え、横井選手の強気の攻めが多く決まる苦しい展開になります。4-11であっさりと落としてしまいます。横井選手を乗せてはいけません。
- 第3ゲーム、早田選手のサービスからの組み立てが良くなって9-6とリードしますが、そこからミスが続いて9-9と追いつかれます。嫌な空気になりそうなところ、サービスエースと回り込んでのフォアハンドドライブを決めて11-9で取ります。大きな声がコートに響き渡ります。
- 第4ゲーム、横井選手のボールとの距離感をつかめたのか、攻守ともミスが減って11-3と大量リードでこのゲームも取ります。ゲームカウントを3-1にします。
- 第5ゲーム、接戦になり5-4までは競りますが、そこから流れをつかんで点差を広げます。サーブが効果的で、横井選手の得意なパターンにさせません。最後もサービスエースで11-5で勝ち切り、難しい初戦をものにしました。
勝利後のインタビューからも、前回の対戦の反省が活きたことが分かりました。
フル動画。
試合結果を伝える記事。
準々決勝
張本美和選手との対戦でした。第4回パリオリンピック選考会の決勝戦でも対戦しています。
今大会勢いのある難敵に勝てて良かったです。
- 第1ゲーム、積極的に攻撃を仕掛ける張本選手に対し、早田選手はややミスが多く、リードされる展開が続きます。7-10と先にゲームポイントを握られますが、なんとかデュースに持ち込みます。が、ボールとの距離感が合わないのか12-14で落としてしまいます。
- 第2ゲーム、ミスが減り、サーブが効くようになって早田選手がリードする展開になります。11-4でこのゲームを取り返します。
- 第3ゲーム、接戦になり8-7まで競りますが、最後勝負どころでミスしなかった早田選手が11-8でこのゲームも取ります。
- 第4ゲーム、実力拮抗で8-7まで競りますが、そこから精度の高いプレーで突き放して11-7でこのゲームも取り、ゲームカウントを3-1とします。
- 第5ゲーム、ボールとの距離感をつかめたのか早田選手が大量リードする展開になります。一気に試合の流れを引き寄せて11-2で圧倒し、難敵に勝利しました。
フル動画。
試合結果を伝える記事。
準決勝
伊藤美誠選手との対戦でした。第2回パリオリンピック選考会の準決勝以来の対戦になりました。
今大会の早田選手と伊藤選手の状態なら勝てると思いましたが、勝てませんでした。伊藤選手は別人のように強かったです。
- 第1ゲーム、早田選手にミスが多くリードされる展開になります。6-8の後3連続失点し6-11で落としてしまいます。早田選手らしくないミスが目立つのは、相手が伊藤選手だからでしょうか。
- 第2ゲーム、このゲームも入りからミスが多く流れをつかめません。レシーブが非常に悪く、サービスもあまり効かず6-11でこのゲームも落としてしまいます。流れ的にはまずいです。
- 第3ゲーム、サーブが効かなくて苦労しますが伊藤選手の前陣に張り付くラリーでも勝てるようになります。8-7でタイムアウトを取って9-7としたものの、すぐに9-8にされてしまいます。それでも苦しいラリーを制し、最後はサービスエースでなんとかこのゲームを取り返します。この試合、ラリー戦にするなら伊藤選手を台から下げさせるべきですがそれができず、有利な形になりません。
- 第4ゲーム、ようやくボールとの距離感が合ってきたのか、早田選手らしい攻撃が決まり出し、リードする展開になります。8-3と大量リードしたところでYouTubeでの配信が終了し、Leminoで再開された時には11-6でした。ゲームカウントは2-2です。
- 第5ゲームの配信がLeminoで再開された時には2-3でした。5-5まで競りますが、その後伊藤選手の術中にはまってしまい5-11で落とします。
- 第6ゲーム、サーブからの組み立てが良くなり、レシーブで左右に振られても対応できるようになります。流れをつかんで11-3と圧倒します。
- 最終第7ゲーム、レベルの高いプレーの応酬で5-5まで競りますが、そこから5-8とリードされます。状態が良い時の伊藤選手は強いです。早田選手も追い上げて8-9としますが、最後は伊藤選手らしいプレーが決まって8-11で敗戦となりました。
近年の早田選手の試合を観ていると、対戦の多い選手にはしっかり対策して試合に臨んでいるし、その基本の対策が通用しない試合であっても勝ち筋を見つけられる印象です。ところが伊藤選手に対してはまだそれができないのか、それだけ状態の良い(準々決勝までは決して好調には見えなかったのですが)伊藤選手は強敵だということでしょう。でもその伊藤選手を寄せ付けない中国TOP3はとんでもないですね。
フル動画。第4ゲーム7-3から第5ゲーム2-3が欠落しています。
試合結果を伝える記事。
3位決定戦
大藤沙月選手との対戦でした。2021世界卓球選手権ヒューストン大会 日本代表選考合宿以来の対戦でした。
第4ゲーム以外はきわどい接戦になりました。勝てて良かったです。
- 第1ゲーム、大藤選手の球質に合わせられないのか早田選手にミスが目立ち、リードされる展開になります。8-8としてからラリー2本をミスで失点し、8-11で落としてしまいます。
- 第2ゲーム、ミスが減って早田選手らしい攻撃が決まるようになり、リードする展開になります。7-3と大量リードするも大藤選手の逆襲にあって9-7と迫られます。それでも勝負どころで失点しないで11-8でこのゲームを取り返します。
- 第3ゲーム、サーブからの組み立てが良くなり、動きにも躍動感が出て早田選手がリードする展開になります。10-6とゲームポイントを握ったところから3連続失点で10-9にされますが、なんとか11-9でこのゲームも取ります。
- 第4ゲーム、接戦で3-3まで競りますが、そこから流れをつかんだ早田選手が強さと巧さを見せて11-3と圧倒し、ゲームカウントを3-1にします。
- 第5ゲーム、精度の高いプレーの応酬が続きます。間違いなく世界レベルです。実況の山﨑アナウンサーに「言葉を失いますね」と言わせたほどです。10-8でマッチポイントを握ってから大藤選手にフォアハンドドライブを決められますが、最後はサーブ3球目を強烈なフォアハンドドライブでミドルに打ち込み、接戦をものにしました。
大藤選手、強かったです。早田選手は大藤選手に勝って、今大会を3位で終えられて良かったです。
フル動画。
試合結果を伝える記事。
最終順位
最終順位(ベスト8まで)と、獲得した選考ポイントです。
選考ポイントの合計上位8名です。2位の平野美宇選手とは200ポイントの差があります。
積み上げグラフで見ると良く分かります。
早田選手はダントツで1位をキープしていますが、あと6ヶ月ある選考期間を戦い抜かねばなりません。
大会の結果を伝える記事。
選考レース状況を伝える記事。
大会終了後
早田ひな選手のツイート。あっさりだけど、これでいいんです。
遅くなりましたがTリーグ個人戦ではたくさんの応援ありがとうございました🐥🧡
会場でタオルを掲げて応援してくださった皆さん本当に嬉しかったです。今年のTリーグは7月に開幕になります。全国の皆さんの前で試合が出来るのを楽しみにしています。今年も日本生命レッドエルフを宜しくお願いします。 pic.twitter.com/hYAYa6iOt6— 早田ひな (@hayata_hina) June 21, 2023